第3章 くじら
ー赤葦sideー
「…潮焼け、前にも話してくれたね」
『うん!結構ね、サーファーには多いんだよ。わたしはそれでも結構暗めだったのね、今まで。
あくまでもナチュラルな感じで、染め直してもらってたから。
でも結構色抜けちゃったし、いっかぁって、ちょいと遊んじゃった』
舌を小さく出していたずらに笑う。
その動きによって、
俺の指に髪の毛が戯れてくるように触れてくる。
「うん、かわいいね。こっちも好きだな、俺」
君のことが好きだ、とはまだ言えた試しがないが。
君のここが好きだ、ということなら言える。
なんというか間接的で。
そして穂波ちゃんはなんの警戒も持たず、
時に恥ずかしそうにしながらも、
いつもその言葉をまっすぐ受け取ってくれるのだ。
「えっ…///」
『…?』
「あ、いえ何でもありません… えっと、一旦体育館へ行くって言ってましたよね?
私はちょっと先に… 体育館へ行っています!」
阿部さんが何かに動揺した様子で、調理室から立ち去る。
『…あんな慌てたのんちゃん初めてみた』
「落ち着いた雰囲気の子だね」
『ね。 …よし、じゃあわたしたちも一旦体育館へ行こっか。もうみんな来てるかな?』
「烏野以外はみんな到着していたよ」
『烏野〜♡ 久しぶりだねぇ』
「だね、 あのさ、穂波ちゃん」
『ん?』
「今日さ、夜の仕込みなんだけど…」
『うん』
「俺も来てもいいかな?」
『ん?』
去年、1回目の音駒合宿で穂波ちゃんと再会して。
風呂も入ったあとに話がしたくてここへ来た。
簡単な仕込みを手伝いながら話してるうちに、
雀田さんなどはいつの間にかいなくなっていて、
仕込みが終わった後もお茶を飲みながら2人でしばらく話をした。
それから銭湯へ一緒に歩いて…
あの夜道が、よかった。
なにがどう良いのかはわからないけど、印象的で。
今年しかもう、そんな機会はないだろうと思うから。
それに来年、穂波ちゃんはアメリカへ行ってしまうから。
孤爪に許される範囲でというか、
穂波ちゃんが大丈夫な範囲で、一緒に時間を過ごせたらと思ったりしている。