第7章 su casa
ー穂波sideー
3月4日(火)
「おはよ、穂波」
白いリュックを背負った研磨くんを玄関で出迎える。
日中の日差しは暖かくなってきたけれど、朝はまだまだ寒い。
『おはよう、研磨くん。 ささ、どうぞ』
「…ん」
今日はこれから国立へ行くんだけど。
実のところわたしは初めて、足を運ぶ。
お父さんやその友達から、それから研磨くんから写真は見せてもらってるけど。
初めて。 なので、すっごくわくわくしてる。
駅は矢川駅。
途中武蔵野線と南武線に乗り換えて向かう。
矢川駅からはコミュニティバスに乗ろっか、穂波すきそうって思って。って研磨くんが。
うん、コミュニティバス、だいすき。
それから、車で引っ越しの時に自転車持ってこうねって。
平家の大きな一軒家で。
部屋が7個あるんだって。7LDK。
部屋の数がある程度欲しい、という研磨くんの条件にハマったみたい。
あとは静かなとこ、一軒家、大家さんがうるさくない… とかとか。
研磨くんが大会に出て優勝してから、家を借りようと思う、という話になって。
とんとん、それは進んでいった。
わたしはその時、別に一緒に暮らすとか考えていなくて。
新しく始まる研磨くんの生活に、その先のイメージにただただわくわくしてた。
──「気に入ったから、借りることにしたんだけど」
『うん、うん!』
「穂波は見なくて平気?」
『うん?』
「…んーと、おれだけで決めてもいいのかなって。 あ、いやおれが借りるおれの家なんだけど」
『………』
「んと、 …アメリカ行くまで一緒に暮らさない?」
『………』
「…別にどっちでも いいんだけど」
『研磨くんがそう言ってくれるなら…』
「…ん」
『一緒に暮らしたい。 いいの?』
「うん。おれは、それがいい」
そんな流れがあって、数ヶ月だけど一緒に暮らすことになったのだ。