第7章 su casa
ー黒尾sideー
──【国立で家借りることになった。引っ越し手伝って】
先月研磨から突然のLINEが入った。
研磨の親っていうかおばちゃんは卒業したらアパート借りて一人暮らししろ、ってスタンスだったけど
研磨がアパートはいや、の一点張りでしばらく実家住みになると聞いてた。
もちろん、4年間そこから通おうなんて研磨が考えてないことは明白だったし、
話し合って研磨の親… おばちゃんも承諾した。
いろいろは全部自分で工面できるようにするから、
ちょっとその準備の間だけ家に居させて。
っていう、研磨のあるあるだ。
指示を出すとき、行動に移す時は的確且つ端的な言葉で表現するけど。
まだ未確定なことを話さないといけない場合、途端にふわっとさせる。
ふわっとさせてんのに妙な説得力があるのは、研磨故だろうとは、まぁ、思う。
LINEを見たのはバイトの休憩中だったから速攻電話した。
「…で、どういうこと? もうちょっと詳しく説明くれる?」
「ゲームの大会に出たんだけど、2つ。どっちも優勝して、賞金入ったから」
「………借りんのは部屋? それとも文字通り家?」
「家だけど… 古いとこ。 広いし。 周りがうるさくないし。 近所の人もそんな近くない」
「…へぇ 古民家平家ってやつ?」
「…ん。 シゲさんの友達が物件紹介してくれて。 良さそうだし、決めた」
「あ、そ。 引っ越しは来月だろ?」
「うん、バイトのシフトとかあるだろうし早めに言っとこうと思って」
まぁ、引っ越しの手伝い、に関しては十分、 “早め” とは言えるけども。
普通、大会で優勝した段階で “早め” に言うもんじゃね?
「賞金いくら?」
「合わせて900」
「……900千円?」
「は?」
90万くらいだろ、高校生がゲームの賞金で稼げるのって。
「…は? 万?」
「なんでわざわざ千にしたの、クロ大丈夫?」
「いやそうだよな、研磨がわざわざそんな言い方…… はっ? 900万!?」
小遣いだけでやりくりしてた高校生が、いきなり900万も手にすんの!
おいおいオイオイ…… 俺のこのあとのバイトのモチベーションどうしてくれんだよ……