第6章 リレー
ー穂波sideー
「…手、空いた?」
片手で食べる方のパピコを持って、
もう片方の指にまだ食べてない方のパピコを引っ掛けてた。
でもコーヒー味食べ終わったから、今は空けようと思えば空けれる。
食べる方のを持つ手に、空っぽの方もくしゃって持てばいい。
『…ん』
右手をあけると、研磨くんの左手の指が絡まってくる。
アイス、持ってたからお互いにちょっと冷たい。
「父さんが、その詩、読んでくれてた。小さい頃、寝る前に」
『…わぁ』
なんて素敵。
息子に詩を読み聞かせる、お父さん。
『…谷川俊太郎さん。ほんと、すごい』
「え? …あぁ、その人が書いたの? 有名な人だね、おれも名前知ってる」
『うん、ほんとに、ほんとにすごい人。いいな、いつかわたし達の子にも読みたいな』
「…ん、いいね」
『ね』
経度から経度へと、わたし達は地球をリレーする。
そうしていわば、交代で地球を守ってるんだ、って。
「…離れて暮らすのも、期限付きなら楽しいかもね」
『…ね、カリフォルニアいる間、楽しかった』
「うん。 …大丈夫、とは思ってたけど。楽しいかもって思ったのは今が初めて」
『うん やっぱわたし達、…』
「サイキョーかも」
『うん』
幸せだ。
好きな人と一緒に手を繋いで、ぷらぷら歩いて。
一緒にいるいつかの未来も、
一緒にいれない近い未来も。
全部受け止めて、受け入れて、そして楽しみって言い合えて。
手にはアイス。
みんながどこでも買える、アイス。
『…パピコって素敵だね』
「え」
『手軽で、馴染みやすくて、溶けても平気だから色んな時に選びやすくて。
老若男女にとって、親しみやすい、パピコ。そしてとっても美味しい』
「…ふ ほんとだね。 穂波みたい」
『へ?』
「手軽、ではないけど。
でも仲良くなりたいって思った人にとって、それは意外なほど敷居が低いことだろうし」
『………』
「明るいし、あったかいし、太陽みたいだけど、眩しくない。
排他的じゃないから、みんなが安心して、どんな気分の時も穂波の隣にいる事を選ぶ」
『………』
「最強だ」