第6章 リレー
ー研磨sideー
『カムチャッカの若者がきりんの夢を見ている時……』
穂波がなにかを言い始めた。
…詩、かな?
カムチャツカが夜の時、メキシコは朝で。
ニューヨークが夜の時、ローマは朝で。
地球ではいつもどこかで朝が始まってる、って。
…なんとなく聞き覚えがある気がしなくもない。
…多分、読み聞かせじゃないけど。
おれが小さい頃、父さんが寝る前に読んでたっていうか。
今、穂波がしてるみたいに、空で読んでた……かも。
『僕らは朝をリレーするのだ……』
あ、そうだ。
すごい、記憶が鮮明に呼び起こされる。
おれの寝かしつけは父さんがすることが多かったと思う。
赤ちゃんの頃は知らないけど、割と意思疎通するようになって、
おれの記憶がある頃からは多分。
年長のどこかから部屋で一人で寝るようになった。
それまでは、親の寝室で一緒に寝てた。
そのどちらもの記憶のなかに、父さんがこの詩を空で読んでるのがある。
親の寝室では一緒に布団に寝転がって、
おれの部屋では、ベッドサイドに椅子を持ってきて座って。
寝る前になんで、朝のこと言い出すんだろ。って、小さいながらに思った。
初めて聞いた時か、言ってる意味を理解した時かはわかんないけど。
それで、最後の方に
「眠る前のひととき、そっと耳を澄ますと……」
って言うんだ。
それで、あ、今のことだ、おれ今、眠る前だって、ぶわーって想像が広がった。
それまで父さんが言ってたことが急激に今に、落とし込まれたっていうか。
…どこかで目覚まし時計の音が鳴ってる、みたいな感じで続く。
それから
それはおれが送った朝を、
「『誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ』」
って。
妙に安心して、眠りに付いたんじゃなかったっけ。
ファンタジーみたいで、わくわくして、
でもそれは限りなく現実で、妙に落ち着かせる。
それから、この詩を父さんが読んだ次の日の朝は、
なんか、誇らしい気持ちになった。
おれ、バトン受け取った、みたいな。
ふわっとしてるけど、確かにおれは、わくわくしてた。