第5章 hotdogs, layer cakes & parfeit
ー穂波sideー
西日の指し始めた夕方、田舎のバス停の小さなベンチに座って。
並んでチューペットを食べる。
それに、なんとも言えないノスタルジーを感じて。
沁みる。
『蛍くんとここでこんな風に過ごしたのは初めてなのに』
「………」
『この郷愁感はなんだろう』
「………」
『今までにもこんなことをしてきたような錯覚が起きてる』
「…まぁ、こんな風な」
『………』
「よくわからないことばかり、起きてるから。穂波さんとの時間は」
『………』
「だからかもね」
『…蛍くんちょっと』
「はい」
『随分ざっくりした表現をしたね』
わたしがしても普通だけど、蛍くんがすると際立つ。そのざっくりさ。
そんな気がした。
「ははっ 穂波さんに言われたくないけど」
そう言われると、何も言えないし。
「あー、もうバス来ちゃうね」
蛍くんの目線の先をみると、小さくバスが見える
「キスしよっか、次はまた合宿ですね」
『うん?また合宿でだね?』
2つの異なる言葉を連ねて投げかけられて、よくわからない返事をしてしまう。
してやったり、という顔でにたっと笑って、蛍くんはわたしにキスをする。
舌ははいってこない。
でも名残惜しさを感じるには十分な、長く甘く、ねっとりとした口付け。
「カリフォルニアの話また、聞かせてね。あと、普通に電話する」
『…うん …蛍くん』
「なに?」
『楽しい一日をありがとう。 なんか青春してるって感じが今、唐突にした』
「はい?」
『よくわからないけど… とにかく、本当にありがとう。大好きだよ』
バスが停まり、ステップに足をかけながらそう伝える。
「どーも。こちらこそありがとう。じゃあね、」
あっさりとした返事。
蛍くんらしい、返事。
乗り込んで座席に座り、手を振る。
蛍くんに、それからちょっと向こうに見える自転車に乗った翔陽くんにも。
初めて来たのに。
初めてじゃないみたいな。
妙な安心感。
烏野、いいとこ。
でもそれ以上に、蛍くんの魔法が色濃かったから、かな。