第5章 hotdogs, layer cakes & parfeit
ー穂波sideー
自転車置き場が近づいて来て。
あー、音駒にもどこの学校にもあるけど、
自転車置き場ってなんかいいなーって。
今だけの風景。
ここにある、日常っていうか。
わたしにとってはここは日常じゃないけど、
なんていうか蛍くんにとっての日常の風景だっていうのを強く感じた。
…あとは水道のとことか、体育館へ続く渡り廊下とか。
今日、ここで、知らないとこでそれを目にしてすごく感じた。
白鳥沢に行った時はいろいろ桁違いであまり感じなかったんだけど。
そしたらそんなとこでいきなり蛍くんが甘々になる。
腰をくいっと引き寄せて、何か意図があるのかな?って感じが一瞬した。
でもすぐにそんな感じはなくなって、いつもの…っていうとちょっと違うけど、
でもたまに見せる、やっぱり いつもの、 優しい優しい目をしてわたしを見つめる。
髪に触れ、こめかみに触れ、真っ直ぐに好きと言ってくれる。
それから額に、キスが落とされる。
「…あー、ちょっと今、烏野の制服着て欲しいって思った」
『へ?』
「なんでもない」
『…あ、烏野って学ランなんだよね』
去年、合宿で夕くんが教えてくれた。
「うん、そうだよ」
『あー……見たかったな』
「ははっ 遠距離ってこんな感じかな」
『ん?』
「お互いの日常に想いを馳せる感じ。あと、自分の日常に取り込みたくなる感じ」
『…どう …だろう?』
遠距離…
あと一年ちょっとすれば、わたしと研磨くんはいわゆる、それとなる。
「穂波さん、ちょっと僕、欲が出てきた」
『…ん?』
蛍くんはわたしの顎をくいっとして、腰をかがめる。
唇に重なる温度。温かく柔らかな感触。
もう、知ってしまっている、覚えてしまってる、蛍くんの唇。
まずい、ここで離れないと…
って思ったところでふっと唇が離れた。
いつも蛍くんはもっと、くることが多いから、
なんていうかちょっとあれ?ってなってる自分がいることに
心の中でひとり小さく突っ込む。