第5章 hotdogs, layer cakes & parfeit
「……僕には何もできない気がする」
『………』
考えようとしても、考えれない。
話を聞く。話をしてくれるまでそばにいる。
一緒に食事をとる。散歩できるならする。
そんなありきたりなことしか。
…ありきたりなこと?
「…でも、とりあえずできることは一緒にしてみようとするかも」
『…うん』
「話したいなら聞くし、話したくないなら聞かないけど。いつでも聞けるようにはしとく。
食事やお茶は一緒にできたらと思う、穂波さんに出会ったからかな、余計にそう思う」
この人にとって、食べることはその行為以上の意味を持つ。
欲望的なそれではなく、もっと、なんだろう、豊かさに繋がるもの。
いやこの人にとってはそれが当たり前で、
この人と食事やお茶の席を共にした人にとっては、かもしれない。
「昼でも夜でも、心地の良い時間に少し一緒に歩いたりとか、するかもね」
『うん。一緒だ。 あとわたしはね、踊りたいなって思う』
「ああ…」
『見ててね、って踊るのはきっとできないから』
「…?」
『ただ、踊る。でももしそれを見て少しでも心が動いたら嬉しいなって思う』
「そうだね」
『踊りって身体一つでできるんだよ。
そりゃリズムがあってメロディがあったらそれはそれは楽しいけど、なくたってできるし。
だれかが手を叩いたり足踏みしてくれれば、風が葉っぱを揺らしてくれれば、
それで木の実が大地に落ちれば… それはもう、十分すぎるほどでもある』
「………」
『あ、でもね、踊りでどうこうしようとかそんな烏滸がましいことは考えてないの。
いや考えろよ、って逆に思うんだけど、いかんせんそういう思考回路がまだ形成されてなくて』
それで、いいと思う。
この人が疎いだけで、音駒の卒業式に撮ったという動画の再生回数はかなりすごいし、
コメント欄の3つに1つは穂波さんのことに触れてる。
バンド自体も相当、レベルもクオリティも高くって。
言ってこないし、聞いてないけどきっと、
何かしら仕事のにつながるようなオファーとかそういうの来てるんじゃないだろうかと思ってる。
そう、この人は何も考えなくても、
踊り出してしまえば、きっと必ず多くの人の心に足跡を残す。
心地よく、暖かく、爽やかに。