第5章 hotdogs, layer cakes & parfeit
『これ、どうぞ…』
穂波さんは小さな紙袋を僕に渡してくるわけだけど。
「なんでそんなもじもじしてるの?」
『いや、わかんないけど… 誕生日とかじゃないけど贈り物したくなって、
それを渡すのが蛍くんの部屋だなんてなんか、予想してなくて…』
「僕のことすっごく好きな子みたいだね」
『……』
「実際そうかな?」
『…ん』
…ん って、なに。ほんと、調子狂う。
「合宿に持ってくるの忘れたの?」
『ううん、荷物になるし、どうせ会うからって思って』
「…そっか。 ありがとう。 中、見てもいい?」
『うん、見てみて?』
紙袋の中には、ワックスペーパーの茶色い紙袋がまた、入っていて。
麻の紐と、黄色い小さな花のドライフラワーでラッピングされてる。
控えめで、なるべく無駄を省いたような包装。
包みの中には、
「あ、これ…」
シリコン製のタンブラー。色はアイボリーっぽい感じ。パッケージにstojoの文字。
くしゃっと畳めて、持ち運びもし易く、見た目もシンプルでマットでいい感じのやつ。
スノボに行った時に持ってきていて、それいいな、って僕、言ったはずだ。
別に欲しいって意味で言ったわけじゃないけど。
── 「それ、いいね。サイズいろいろあるの?」
『うん、いろいろあるよ。蛍くんはいつもそのサイズ?』
「うん、普通にトール。穂波さんはショートなんだね」
『うん。大体ショートかな』
「…覚えとくよ」
スタバでどうしてもホワイトホットチョコレートが飲みたくなった穂波さんは、
両手でタンブラーを包みながら、さりげなく僕がいつもどのサイズを買うのか聞いてきてた。
その時は普通の会話だった。
でも今も思うときっと、何か思いがありながらの質問だったんだろう。
どぎまぎしたり、変にぽかんとしたり。
ぶっ飛んでるのに、でも賢くて、そうしてこういうさりげないとこがある。
…はぁ、ほんと。
この人は僕にどれだけの足跡を残していくつもりなんだろう。
コーヒーをテイクアウトする時、
タンブラーを洗う時、持ってくるのを忘れた時…
どれだけ僕に思い出させる気なんだろう。
そんな意図なんて微塵もなく、この人は意気揚々と。天真爛漫に。
僕を誑す。