第4章 宇治金時
ー研磨sideー
「…ちょっと、思っただけ。朝ごはん食べたって、一緒に寝るわけじゃないし」
そんな、カズマに嫉妬とかじゃないんだけど。
単純に、ずるいなって …思っただけ。 …え、これって嫉妬?
でももやもやとかそういうんじゃない。
なんか単純に、ずるいなって…
『うん。研磨くんは朝食べたいものって決まってる? …今更だけど』
「家ではパンだけど… 穂波の朝ごはんすき。
その時の気分とか空気とか流れが全部入ってる感じ。
だからあれが食べたいってときは言うし… あ、作れたら作るし…」
『うん』
「風邪の時の、はあるから、それでいい」
『うん。 卵がゆかふわふわの卵うどん、それからりんご』
「ん、あとみかんゼリーも」
『…うん!』
ここで穂波が納豆作るのやめるって言ったり
おれにも今度作るね、とか言ったりしてたら
おれはどうしてたかな。なんか、ずるいな…って感情が肥えてた気がする。
そういうので、解決する感情じゃないから。
こうやっておれらの時間を重ねていけばいい。
おれらだけの、時間を。
嘘とか誤魔化しとかはしないで、まっすぐ。
そしたらほら、こうやって、さっき抱いた感情を無視することも蓋することも
逆に変に触れることも煽ることもなく、無理なく流れてく。
「あと、クリスマスの炭酸水とか」
まだ2回しか季節を一緒に過ごしてなくて
今が一緒に過ごす3回目の夏で。
でもそれでも、ちょっとだけ、
毎日じゃなくても大きいスパンでの定番みたいな。
でも決まり事ではなくって、ってことは思い浮かぶ。
なんかそれって、豊かだな、とか思った。
『うん!』
「…祭りのときのたこ焼きとりんご飴とか」
『うん!』
「あとグラノーラは買うんじゃなくて手作りだとか」
『うんw あと、お散歩がてらのアイス屋さんも』
「…ん」
『それから、アイス屋さんがしまってた時の甘味処も』
「ん」
『いっぱいいっぱいあるね』
「ね、いっぱいあるし…」
『…?』
「増えてく一方だ」
今言った食べ物縛りでの項目が、じゃなくて。
もっと広い意味で。
穂波といるといろいろ増えてく。
増えてくけど重くない。増えてくけど、身軽。
心地いいものが増えていく。