第4章 宇治金時
ー穂波sideー
「…ふ 」
お正月にクロさんも一緒にきた甘味処に来た。
店内は空いていて、それから涼しすぎない。薄暗い店内。
風鈴の音。 冷たそうな床で寝てる黒猫と三毛猫。
何もかもがたまらなくいい。
そして研磨くんが小さく笑った理由はおそらく、
わたしがメニューを見て興奮しているから。
かき氷を絶対食べると思って歩いてきたのに。
心太だとかみつ豆だとかクリームあんみつだとか、
水饅頭だとかわらび餅だとか水羊羹だとかに目移りして仕方ない。
でもでもやっぱり、
『かき氷にする』
「…ん 笑」
『…?』
「決まった?笑」
『………』
もう心は決まりましたと言わんばかりにかき氷にすると言ったけど、
まだかき氷にすることが決まっただけだった。
宇治、宇治ミルク、宇治クリーム……
みぞれ、みぞれミルク、みぞれクリーム……
きなこと黒蜜、梅シロップ……
あああ 金時とか白玉とか可能性が無限大すぎる……
『け、研磨くんは?』
一人勝手に切迫して吃ってしまった。
「…おれはわらび餅」
『あああ……』
「…笑 一緒に食べようね」
『…ん』
「………」
『宇治金時』
「え?笑」
『宇治金時にする』
「あ、うん。わかった、じゃあ…」
研磨くんが手をあげて店員さんが来てくれる。
すいませーん、だなんて研磨くんは言わない。
すっと上げて、さっと見て。
すすす…と来てくれる。
かく言うわたしもこう見えて、すいませーんは極力言わないタイプだ。
理由はなんとなく、だけど。
無事に注文を終えて、ぼんやりと時間を過ごす。
研磨くんはゲームを取り出して。
わたしは猫をなんとはなしに観察しながら。
とはいえ、寝転がってるから尻尾の動きをみるだとか、
寝てる子の呼吸による身体の動き?を見るだとか、そんなこと。
黒猫と三毛猫…
三毛猫が寝てて、黒猫は目が開いてるけどだらんってしててしっぽ動かしてる。
…なんか、研磨くんとクロさんみたいだな。
研磨くんがミケっぽい印象なのは今だけか。 …黒髪研磨くんが懐かしいな。