第16章 釘
「恋人ごっこ、したいんやんか、穂波ちゃんと」
『…恋人ごっこ』
「ここにおるだけの間」
『………』
もうちょっと説明が欲しい、全然追いつけない 笑
「さっき一緒に買い物しとって思ってん。
俺ら付き合っとったら、俺が穂波ちゃん家に通える距離に住んどったら、ってむっちゃ妄想した」
『………』
「それは実現できんでも、俺がここにおる間だけ、ごっこ遊びすればええやんって思って」
『…んと』
「あ、穂波ちゃんは俺のこと彼氏と思わんでもええよ」
『………』
「ただ、俺がごっこ遊びすんの。 でもキモいやろ、言わんかったら。
妄想のすごいストーカー症候群みたいやん。
でも俺、彼氏のつもりでここにおってもええ? ごっこやから!って先に言うてたら、
そうでもないことない?」
『………』
「…穂波ちゃんにはここでの日常があるやろ。
やから会われへん時間があるのわかっとる。
ちゅーかほぼほぼ会われへんのわかっとる。
でもなんかそういう時間もむっちゃわくわくすんねん、
俺ら付き合っとって、ほんで、今は会われへんけど1週間後の夜にもっぺん会えるとか、
そういう思考回路で挑むと」
『…挑む』
「やから、それやらして?」
『…それは』
「………」
『侑くんの勝手だけど…』
「…笑 やんな、ごもっとも」
わたしにできることは、特にないのかな?
『…んと、わたしは?』
「ん?」
『何したらいいの?』
「いつも通りおってくれたらええよ、今日かてそうやったやん」
『…んー、わかった。 でもその彼女とどこか行きたい!とかあったら、
遠慮なく言ってね、車出せたら出すしさ』
「ぉん、わかった!毎日LINEしてもええ?」
『え? あ、うん?』
「毎日LINEするんウザイとか思う彼女ちゃう?」
『…んー、わかんないけど。
1週間しか今は会えないなら全然、むしろ嬉しいって思う』
「やった!」
なんだかわたしもごっこに片足突っ込んでしまってる気がしてくるけれど…
まぁいいか。 侑くん、にこにこしてる。 かわいい。