第16章 釘
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『…侑くん、お店着いた。 車にいる?』
いつの間にか寝とって。
とんとんって優しく起こされて、
お水飲む?言われて穂波ちゃんの水筒から飲んで。
ほんで首傾げて、別に特別でもなんでもないこと聞いてくる。
…特別でもなんでもないからこそ、
むちゃくちゃ幸せなんやけどなにこれ。
「…ん、行く。 …待って、ちょ、充電させて」
『…ん? あ、携帯?』
「…ちゃう」
シートベルト外して、
左側にある運転席におる穂波ちゃんの方に身体乗り出して、キスした。
舌とか入れんけど、ちょっと吸い付くようなねっとりしたやつ。
「…時差ぼけやばい」
『…だよね、しんどいよね。
今日は早く寝ようね、それで明日朝ちゃんと起きたらきっとすっきり』
「………」
早く寝ようねってどういう意味なん。
はよ帰されるんか。
まぁええわ。
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「うわ、何これあさり?」
『あさりだねぇ』
「イカもええなぁ」
『ふふ、侑くん魚介な気分?』
「わからんけどなんや旨そうに見えるわ」
『ここは確かに魚介に強いお店だから、美味しいよ。
生食用のトロとか置いてないかなぁって思ったけど、なかったなぁ』
「ええよ、それは日本で食うし」
『うん、そうなんだけどでも』
「………」
『好きな人に好きなもの食べてもらえたら嬉しいでしょ?』
「………」
さっきから俺に、普通に言ってくるその好きって一体何。
期待してええんやんな?
それから穂波ちゃんは
朝ご飯の分も買ういうて、夕飯のと朝メシ用の材料を買っとった。
同居人のカズくんが家を空けとるから、
あんまし色々食料が家になかったんやって。
スーパーで一緒に買いもんするんとか、マジで最高やなって思った。
なんにする?とか言ったり
あれも旨そう、あれもええな、とか言ったりして。
会話しながら妄想が捗ってまう。