第44章 その琥珀糖の味は… ※R-15
スルッと彼の腕か解けて
圧し掛かっていた身体の重みから
急に解放されてしまって
その体温も離れてしまって
寂しい気持ちになってしまう
よしよしと杏寿郎の手が
あげはの頭を撫でて来て
「君にそんな顔をされてしまったら、
俺とて、
離れられなくなってしまうからな。
そんな顔をしてくれるな。あげは。
もう少しの辛抱なんだろう?
そうなってしまえば、
容赦は出来そうにないが…。
それも、君は承知の上なんじゃないのか?
もし、まだ俺に手加減をさせようなど
そんな考えを持っているならば、
諦める事だ」
「なっ、そ、それは…ッ」
「ああ、そうだ。あげは、あの
琥珀糖を2、3程分けてくれないか?」
そう杏寿郎が言い出して
少し驚いてしまった
分けて欲しいも何も
あんなに食べきれないと今まで
持て余していたのは事実だし
それに元を正せば
杏寿郎から贈られた物なのだから
「まだ、動けそうになさそうだな…」
「別に、2,3と言わずに
5つでも6つでも…構いませんが」
「そうか?まぁ適当に貰って行くぞ?」
彼は懐紙に琥珀糖を包んで
部屋を去ってしまって
ひとり残されてしまう
身体は実はまだ言う事を聞きそうにないが
こんな床の上で寝転んで放心状態で居るのは
それはそれでおかしいだろうし
むくりと意を決して
あげはが自分の気怠さの残る身体を起こして
杏寿郎が直してはくれたものの
ある事が気に掛って
あげはが立ち上がると
洋服ダンスの内側にある鏡に映して
自分の左胸の上に残された蝶を見る
杏寿郎の蝶々…
1匹では寂しそうだと彼は言っていたから
蝶を増やしたそうにしていたし
この蝶がどこかへ飛んで行ってしまう前に
彼と身体を重ねる事になるだろうけど
その時には また 彼は
この蝶が消えかかってるのを見て
飛んで行かない様にまた 私のここに
縫い付けて留めてしまうかも知れないし
それに この蝶だけでなくて
身体のあちこちに蝶を
飛ばされてしまうかも知れない