第42章 その瞳に映る物
あの 菊の花の練り切り
小間物屋に置いてあった摘まみ細工の簪みたい
ポンポン菊みたいな形してる
沢山並べられた そのお菓子を見ると
ふと あの時の事を思い出してしまった
あの時 水屋敷を訪ねた私に
透真さんが出してくれたのは
沢山の洋菓子だったけど
今 私の前に並んでるのは
沢山の和菓子で
「あげは。君は何が食べたい?
食べれそうか?どれ、俺が取ってやろう。
今すぐに食べるのが難しいのなら
君の分を置いて置くが?どうだ?」
そう言って私に尋ねて来る杏寿郎に
遠慮して何にも手を出せないでいた私に
透真さんが尋ねて来てくれた時の姿と
重なる
全然似ていないのに
杏寿郎と透真さんがこうして
重なる時がある…
時々…
そうして申し訳ないと思いながらも
懐かしいと思ってる自分が居る
そう思う度に気付く
気が付かされる
私の中で 彼が過去になって行ってる事に
気が付いてしまう
まだ 彼は 過去でなんてないのに
杏寿郎にああ言われて置きながら
そうしてしまっている 自分が居る
自分の意思とは違う もっと奥底の方に
「………」
無言のままであげはは
そこにある和菓子を見ている様で
あげはの視線はそこになく
その横顔は憂いを帯びていた
「あげは、どうした?食べないのか?」
「あ、いえ。
今はまだ…、また後で頂きます。
あの…それより、気に掛るのですが。
あの羊羹…は、
ここにあっていいんですか?」
そこに羊羹が出されている事を
あげはが心配しながら指摘して来たので
杏寿郎が部屋の襖の前で控えていた
春日に対して声を掛けた
「ああ、そうだったな。
あげは、良く言ってくれた。
羊羹の存在を、
すっかりと忘れる所だった。
春日、君も一緒に休憩にしよう。」
「いえ、炎柱様。
私は…問題ありません」