第42章 その瞳に映る物
杏寿郎があげはの方へと顔を向けると
あげはの
左の鏡になっている方側からだけ
次々にとめどなく涙が溢れていた
まるで 右目と左目で
別人にでもなっているかの様だ
何を見ているんだ 君は
その涙は 誰の涙だ?
どちらにしろ この状態が長く続くのは危険だ
意識をハッキリと取り戻した所で
あげはではない 何かになってしまう
最悪 その様な恐れもあるからな
「オイ、今のあげる、様子が変だぞ?
あげるだけど、
あげるじゃねぇ、誰だアイツ…」
そんなあげはの異変に気付いているのは
俺だけでは無かった様で
嘴平少年がそう言って
警戒しながら
睨むような視線をあげはに向けていた
「今のあげはは、あげはであって、
あげはではない。恐らく…だが、
あげはが目を通して今映してるのは
竈門少年、君の使うヒノカミ神楽とやらに
縁のある…誰かだ…、誰かだけでなく。
誰か等…なのかも知れんが。
大凡に人のそれとは
纏う空気その物が違い過ぎる…。
だが、あまりこの状態が続くのも良くはあるまい」
スッと杏寿郎が立ち上がり
あげはの前に腰を降ろす
「このままでは、
あげはの精神が壊れるかも知れんからな」
ジッとその目を見据えて
虚ろな目の奥を杏寿郎が見据える
「あげは。誰の記憶に君が飲まれているのかは
俺には理解できんが、目を醒ませ!しっかりしろ!
君は誰だ?仁科あげはだろう?」
そう力強く一喝すると
フッとあげはの左目の色が戻って
ぱちぱちとあげはが瞬きをしていて
「あれ?杏寿郎…、今の…は?」
「きゃあああっ!!あげはちゃん?
あげはちゃんなのね?
あげはちゃんだわ!!良かったぁ~、
気が付いたのね?嬉しいわ。
でも、本当に良かった。心配したのよ?
あげはちゃん、急に倒れちゃってね?
それから突然、
別人みたいになっちゃうから。
私、びっくりしちゃったんだから」