第42章 その瞳に映る物
ここからは距離があるが
瓶を開ける前から炭治郎の鼻には
その香りが独特の刺激臭であるのは
感じ取る事が出来ていて
「んっ、……うう゛っ?」
ぼんやりとしていた
あげはの焦点が定まって
弱まっていた回復の呼吸が
一気に深くなるのを感じて
ホッと杏寿郎が胸を撫でおろした
「良かった。心配したぞ?
何があったんだ?あげは」
「あ、杏寿郎…もう、
お戻りになられたのですね。
お帰りなさい、杏寿郎」
まだ 少し意識の混乱があるのか
聞いた質問に対して合わない様な
返答をあげはが返して来て
そのまま ポスンと
杏寿郎の胸に自分の顔を埋めてしまった
「あ、その、気は確かか?
あげは、…まだ混乱しているのか?」
あげはの突然の行動に
杏寿郎が混乱していると
そのままスリッと自分の頬を
杏寿郎の胸元に摺り寄せて来る
「あげは?こら、止めなさい。
寝ぼけている場合じゃないぞ?人前だ」
どうしたものかと杏寿郎が困っていると
そのままスリスリと
幼子の様にしてあげはが
杏寿郎に頬だけでなく
身体ごとすり寄って来る
こちらをニヤニヤとしながら見ている
皆と目が合ってしまって
「…杏寿郎ぉ」
普段とは違う甘えた様な声で
あげはが杏寿郎の名を呼んで来て
「きゃあ!あげはちゃん、煉獄さんに
甘えちゃって、可愛らしいわ。見てて
キュンってしちゃうわ、ドキドキしちゃう」
グイっとあげはの肩を掴んで
自分の身体からすり寄って来るあげはを
引き剥がすと杏寿郎が咳払いをひとつして
「その、だな。あげは?
聞いてくれるか?君にそうされるのは、
俺としてはやぶさかではないが。
その…、心苦しくあるのだが、
今は、それはダメだ。人前…だからな。
まだ、意識が混乱してる様だな。
悪いがもう一度嗅いでくれ」
そんなこと 良く言うよな
めっちゃ嬉しそうな音してんじゃん
あげはさんに甘えられて
喜んじゃってるじゃん
離れた場所に居るけど
炭治郎が凄い顔を顰めて嫌そうにして
自分の鼻を袖で覆ってたから
ここに居る 俺の鼻でも感じる位だから
炭治郎にはキッツイだろうな…
と善逸は考えていた