第41章 羊羹と羽織
ふわっと
軽くなった 急にさっきまで
鉛を纏っている様だったのに
そう考えた途端に 羽の様に軽くなった
「着てていいって事…だよね、
きっと。この羽織を、
鏡柱として、着てていいって」
今までの杏寿郎が
私に言ってくれた言葉の数々も
私には柱としての才覚があると
言ってくれてた
そうして欲しいと望んでくれてた
鬼殺隊 仁科 あげはとして在る事と
鬼殺隊 鏡柱 仁科 あげはとして在る事の
その違いを説いてくれて居たのだずっと
それを遠ざけていた私に
「鬼殺隊…鏡柱…」
他の隊士達は 私をどう呼べばいいのか
戸惑っている様だった
元柱の一般隊士… それも五体満足
上弦の鬼と遭遇した訳でもない
任務を終えて蝶屋敷に戻った時
私が不在だと気を許していた
数人の隊士がしていた噂話
聞こえて居たのだ 私の耳には
「柱から、逃げた…臆病者」
それを聞いていたのは
私だけじゃなくてしのぶちゃんも聞いていて
そのまま病室に入って行って
その怪我の完治していない隊士達を
蝶屋敷から追い出してしまった
事情を知らない人が言う事なんて
放って置いたらいいと言ってくれたけど
私はその通りだと思ってたから
逃げてばかりだった
現実からも目を背けてばかりだった
今も この羽織と
向き合う事から逃げようかとか
そんな事を考えてしまって居て
臆病者だと言われても仕方ないなって
うんと大きく頷いて
あげはが顔を上げると
その顔からはもう迷いの色が消えていて
スッと両手で羽織を正した
「うん、もう、逃げない…」
そこに居たのは只の
鬼殺隊の 柱のひとりの姿だった