第41章 羊羹と羽織
「だが、そうなればなればで。
また別の悩みも出そうではあるがな。
家に居たら、居たで杏寿郎のやつが、
お前にいちいち、
つまらん嫉妬をしそうだと。
そう思っただけだ…」
「はぁ、兄上が
嫉妬…にありますか?僕に?
兄上と姉上は、
その様なご心配をせずとも、
とても仲睦まじくある様にありましたが」
「ああ、そうだ。
あげはがお前ばかり構うと
五月蠅そうだからな、杏寿郎の奴がな。
アイツもアイツで、そうなるのが
目に見えているから、面倒臭い奴だ。
我が息子ながらに…な。
まぁ、血は争えんのかも知れんが…」
その槇寿郎の言葉はまるで
かつての自分がそうであったと
千寿郎に知らしている様に聞こえて
「父上…、
あの、血が争えないと言うのは…」
「ああ、それか、つい口が軽く
なってしまっていた様だな、
昔の話だ。杏寿郎が
生まれてすぐの頃のな…」
そう呆れながら言ってはいたが
槇寿郎のその顔は満更そうでもなかった
その様子を見て 千寿郎も
自然と笑みが零れてしまっていて
ご立派な父上にも その様な時が
あったのかと思うと
今まで以上に父と自分との距離が
近くなった様に そう感じていた
ぐしゃぐしゃと槇寿郎の大きな手が
千寿郎の頭を撫でた
不器用でぎこちなくではあるが
「千寿郎。お前にも…、
分かる日が来る。いつかな」
「はい、父上。」
「俺としては、そんな
近い将来…でなくてもいいがな」
「あの、父上、それは…」
「五月蠅い。
聞き流せ、独り言だ…。
後、それから、
お代わりを貰っていいか?」
そうばつが悪そうに
槇寿郎がそう言うと
空になった
湯飲みを千寿郎の方へ手渡して来た
「はい、只今。あの父上…」
「何だ、千寿郎」
「話を、お聞かせ頂きたいのですが、
その…母上の事を」
そうおずおずと千寿郎が尋ねて来て
槇寿郎がふぅーっとため息をついた
「前に、
あげはに言われたからな…。
いいだろう。
お前の分の茶も用意して来るといい」
話せば長くなるからなと
そう槇寿郎が付けたした