第41章 羊羹と羽織
「お前も、少し休むといい。
お前が家の事をせずともいいように、
杏寿郎が雇ってくれている、
使用人がその為に居るんだ。
お前とはまだ、酒を酌み交わすのは
先になるが、茶なら飲めるだろう…」
そう槇寿郎が千寿郎に声を掛けて
千寿郎がそれに頷いた
「はい、父上。そうさせて貰います」
千寿郎が一旦 槇寿郎の元から下がって
自分の分のお茶を
用意しに台所へ行っている間に
槇寿郎は自分があげはに向けて
したためていた手紙に
再び視線を落とした
「俺からの手紙を…、
あげはが喜ぶ…か。千寿郎も…、
あげはの事を知ったような口を利く。
元々は俺の方が、あげはのアイツの事は
曲りなりにも、
知っていたはずだったのにな。
アイツとは年単位の付き合いがあったんだ」
あの時 10年前のあの時
俺はあげはの事を救った
それは鬼殺隊の柱として当然の事だった
柱ならば当然の行動
若い芽は摘ませない
アイツには水の呼吸の適応があったし
何よりも才能もあったし
そして 可能性が 未来があった
その証拠に あの泣き虫のチビ助が
たった1年で柱にまで登り詰めたのだから
俺の目に狂いは 無かったんだ
あの任務の後に瑠火にあげはの事を話したら
一度家に連れていらして と言われたが
結局 俺もアイツも任務であちこちに
飛び回っていたからそれが叶う事もなく
今となっては 少々融通を利かせてでも
あげはと瑠火を
引き合わせて置けば良かったのかと
後悔してしまう時がある
一目…見てみたいと漏らしていたからな
杏寿郎の妻となる相手を見てみたいと
あの櫛を俺に託す時にそう瑠火が言っていた
どうして 俺は それを
叶えてやらなかったんだろうか?
多くを望まない
あの妻の頼みだったのにも
関わらずに
いや あの時の俺は こうなる未来は
想像はしてなかったからだ
思いもしてなかったからだ
あの頃は…