第41章 羊羹と羽織
「いえ、それは構いませんが…。
これはまた、父上。
随分とお書きになられたのですね…」
その畳の上に散らばった
書き損じた手紙だった物の
ひとつを千寿郎が拾い上げる
「いや、書こうとしているのだが…。
まともに書けず、
進んでいない…のが現実だがな…」
槇寿郎が千寿郎の言葉に
時計を見て成程と納得した
通りで集中力も切れて来るはずだ
思って居たよりも
知らぬ間に時間が経っていた様だった
紙に走らせていた筆をピタリと止めて
視線は その手紙の上に向けたままに
槇寿郎が更に言葉を続けた
「あの時の俺が…、アイツに
あげはにしてやれなかった事だ。
返事を…書いていた。アイツの手紙への。
今となっては、
それも、不要な物かも知れんが…。
あの時の返事にしては、遅すぎるとは
俺も重々に理解はしてる…」
文机の上に数枚広げて置かれていた
手紙の送り主が
あげはである事に千寿郎が気付いて
その紙の感じから その手紙が
届いてから何年も経っているのが
千寿郎の目にも見て取れて
前に姉上が家に来た時に言ってた
あの手紙の事だと 千寿郎にも
理解することができた
「そうでありましたか、父上。
姉上のお手紙にお返事を…、
書かれておいでであられたのですね。
いえ、そんな事は御座いませんよ。父上。
きっと、姉上ならば、お喜びに
なられます事にありますでしょう」
「どうだろうな、
喜ぶ…とも知れんがな。
まぁ、アイツの事だ。
俺から返事が遅すぎると、
反対にあげはにどやされて、
怒られるかも知れんがな。
だが…、それも悪くないかも知れん。
口五月蠅く、恐れ知らずに、
俺にとやかく言うのも
アイツ位なもんだからな…」
そう言って槇寿郎が苦笑いをすると
「しかし、父上。それは姉上が
父上を思って言われておられる事…」
「千寿郎。あげはの事は、俺も
少しは理解してるつもりだ」
槇寿郎がそう返して
一旦言葉を区切る