第41章 羊羹と羽織
杏寿郎が…私に何も伝えずに
その全ての準備を済ませたいと
考えていた理由も 見えて来る
彼の事で 私は多くを外には出さないが
私の心中を察しての行動だったんだと
自分がするに拘っていた理由に納得が付いて
僅かながらにつっかえていた物が
ストンと胸に落ちて来るのを
あげはは感じた
「杏寿郎が、工藤さんにも
次の満月についての
詳細を話していないのであれば。
私の口からもそれを、
工藤さんにお伝えする事は出来ませ…ん」
「お話を頂かずとも、
重要な日であられます事は
炎柱様のご様子からも、
今の鏡柱様の、
ご様子からも伺い知れる事。
無理に知る
必要がない事も御座います故に」
「…っ、すいません。工藤さん」
そう申し訳なさそうに
あげはが工藤に謝罪をして来て
きっとこの方ははそれを
話せない事を悔やんでおられるのだと
そう工藤には察する事ができた
「我々は、
使用人として常に屋敷の事を、
そして、主である炎柱様の事を。
その炎柱様が生涯の伴侶として、
お選びになった鏡柱様の
お二人の幸せを願っております。
これを…どうぞお使い下さい」
そう言って懐紙を工藤から手渡されて
自分が泣いていたのだとあげはは気付いた
「すいません…、ありがとうございます」
その懐紙を受け取って
自分の目から零れている涙を拭くと
「私も、杏寿郎さんも
…幸せ者にありますね。こんなにも、
沢山の人に幸せを願って貰えるなんて。
嬉しくてどうにか、
なってしまいそうです」
そう言って目に涙を浮かべながら
満面の笑みを浮かべてあげはが答えた
スッとその顔に気迫の様な物が一瞬で戻ると
「ますます、
杏寿郎さんの言っていた通りに
そうなる訳には
行かなくなってしまいました」
「もう、今のお顔を拝見しますに。
貴方様には、工藤からのお話も
必要にあられないご様子にあられる。
安心を致しました。
鏡柱様よりも、炎柱様の方が、
何倍にも、私は手を焼かされております」