第41章 羊羹と羽織
「俺では…、
まだ彼には及ばないのだろうか?」
そうぼそりと杏寿郎が呟いて
ぶんぶんと首を左右に振った
「いや、及ばないのであれば、
追いつけばいい。
今は、まだ及ばずとも。
追いついて追い越せばいい。
つい、弱音を漏らすなど。らしくもない。
以前の俺には、考えられなかった事だ。
それも、これもあげはの所為だな。
俺をこう変えた、この責任はしっかりと
取って貰わねばなあげはには…」
そう言って顔を上げた
杏寿郎の顔からは
もう 迷いの色は消え失せていた
杏寿郎が工藤の元を後にして
屋敷を出たのと入れ替わる様にして
あげはが工藤の元へとやって来て
「あの、工藤さん…杏寿郎さんは?
どちらかへお出になられましたか?
お屋敷から気配が消えたので、
おかしいなと思いまして」
「炎柱様でしたら、
甘露寺様にお出しする
桜餅をお買い求めに出られましたが。
何でも、お約束があったとかで…」
やはり鏡柱様に内緒にした所で
鏡柱様は気配には敏感なお方だから
それも無理な話だったんじゃないかと
工藤は思って居た通りだった思いつつ
自分の主人が不利益を被る事のない様に
言葉を瞬時に選んで答えた
「えっと、じゃあ、蜜璃ちゃんっと
じゃなかった、甘露寺さんはどちらに?
応接間に居ますか?」
「ええ。甘露寺様は春日と
話し込んでおられましたよ」
「あ、えっと、あの工藤さん。
確認したい事があるんですが…その。
杏寿郎さんは桜餅と…一緒に
羊羹を買って来るとかって
言ってませんでしたか?」
そのあげはの言葉が工藤には引っかかった
どうして鏡柱様は羊羹が気に掛るのかと
「羊羹がどうかなさいましたか?鏡柱様。
羊羹がご所望であられますなら、
こちらで羊羹をご用意致しますが?」
ぶんぶんとあげはが両手を振って
それを拒否する姿勢を示すと
「いえ、違うんです。羊羹は
私が食べるんじゃなくって、えっと。
あの、工藤さん、
お聞きしたい事が…幾つか…。
お時間は少々頂けますでしょうか?」