第40章 気持ちの跡
「君が悪い…、諦めてくれ」
そういつにない位の低い声で囁かれて
ドキドキと自分の心臓が騒がしくなる
「その、杏寿郎はもう少し…ばかり。
堪えると言う事を、でありますね。
身に着けて…頂かなければ」
「俺はずっと、堪えているが?
君は堪えている俺に、
これ以上堪えろと言うのか?」
スルッと頬を撫でられて
その指先が耳をなぞって行く
「杏寿郎…、
いえ、そちらの意味では
今はありませんでして。
あの、…その、杏寿郎?
私の言葉は、貴方のお耳に
聞こえておりますでしょうか?」
耳をなぞる指先が
あげはの顎のラインをなぞって行く
吐息の温度を感じる位に
彼の顔が近い
「いや…聞こえない…な。あげは。
俺の頭の中は、君で満たされているし。
俺の目にも、君しか映ってないが?
俺が聞きたいのはそんな言葉ではなくて、
あげは…、君の答えが欲しいのだが?」
つい先ほど あれだけ 濃密に
口付けて置きながらに
今度は それに言葉で答えて欲しいと
杏寿郎が求めて来て
「君の答えを…、あげは。
俺に聞かせてはくれまいか?
君のお許しが…欲しいのだが?」
許しを乞うように
今度は言われてしまって
果たしてこの 彼の口付けは
受け入れると答えたら
口付けだけで済むのだろうかと言う
一抹の不安が あげはの胸に募る
「悪いが、もう少し…ここから
離れられそうにないな…。
いや、違うか。
君をここから、離してやれそうに
ないなの間違いだな。あげは」
「杏寿郎…、あの、
せめて…ここではなくて……ッ」
「いや、ここでいい」
これからを想像してしまって
場所を改めた方が良いのではと
そうあげはが提案するが
きっぱりと
杏寿郎に断られてしまって
「え?でも…ここじゃ…」
「だから、
ここでいいと俺は言ったんだ。
場所を改めたい?人目の付かない所に
移動したいと言う意味だろうが。
あげは、今の俺にそれは危険だ。
悪いが、そうしてしまったら。
それこそ、
理性を保てる自信がないからな」