第40章 気持ちの跡
そう言って 彼の動きを
遮る様に出していたあげはの手を
杏寿郎の空いている方の手で
降ろされてしまって
杏寿郎の羽織に覆われていて
確かにこの切り取られた世界には
私と杏寿郎しか 居ない…のは居ないが
「俺と、君だけだ…。あげは」
何て小さな 二人だけの国なんだろう
その切り取られた世界では
私の視界には 彼しか映らなくて…
自分の目には 彼の目の中に
自分の顔が映っているのが見える
杏寿郎の目の中に 私が居る…
今 私は…彼を 杏寿郎を
その存在を 独り占めしているのだと…
そう思いつつも 私は
そのまま 彼の口付けを
受け入れてしまっていて
それもただ
受け入れてしまって居るだけでなくて
自分の唇をスルリと割って入る
杏寿郎の舌に自分の舌を絡めて
彼の 杏寿郎の熱に溶かされる
触れる 舌が熱くて
熱でもあるのかと
勘違いしてしまいそうにあって
その熱が 自分の熱なのか
彼の熱なのか分からずになりながらも
その 口付けに酔っていると
「んっ…ふ、んぅ…、はぁ、杏寿郎」
自然と熱い吐息と声が漏れてしまっていて
「…あげは、…俺は嬉しいが?
そうしてれる…のは、俺を君が
求めて望んでくれていたからだろう?」
時間としては ほんの短い
束の間の口付けの後に
彼がそう言って来て
コツンと額を合わされる
自分から彼の舌を求めてしまって居たのを
彼に指摘されてしまう
「もう少しばかり、俺としては。
君と2人きりの世界を堪能したいが?」
もう少しと 口付けを
更に強請られてしまって
「あげは
…もう少し…、いいだろうか?」
名前を呼ばれて
そのまま唇を重ねられる
その時にはもう 彼の両腕は
私の身体に回されていたから
既に…
羽織の下のふたりだけの
小さな世界では無くなっていたのに
「んっ、ふ、…杏寿…郎…、ん゛っ」
まるでその世界がまだ
続いて居て 醒める事のない夢の様で
指摘する事も出来ないまま…に居て
「…ふ、あげはッ…」
「んっ、はぁ、ん゛ッ、杏寿…郎」