第40章 気持ちの跡
「素直な君は、
堪らなく可愛らしいが。
どうにも、まだ、遠慮が勝ちそうか?
だったら、こうすればいい!」
バサッと何かを翻す音がして
フッと影が帳の様に降りて来る
あげはの視界が白と赤に遮られて
それが 杏寿郎の羽織だと気が付いた
杏寿郎が自分の腕の片側に
羽織りを軽く巻く様にして引っ掻けて
コウモリの羽の様にすると
その羽の様に腕に纏わせた羽織で
あげはの姿を
外から見えない様に覆い隠してしまって
その羽織の中に出来た空間に
杏寿郎が自分の顔を入れて来て
ニコニコと満面の笑みで
笑っている彼と目が合ってしまった
「これなら、どうだ?あげは」
「いや、杏寿郎…確かにこれでは
顔や口元は外からは見えませんが…。
足元が丸見えにありますし…、そのっ
そう…してるのが、外から見れば
丸わかりじゃありませんかっ」
頭隠して尻隠さずだともで
言いたげにあげはが不満を述べて来て
ぱちぱちとあげはの言葉に
杏寿郎が目を瞬かせると
「はははは。ご不満か?あげは。
君は、なかなかに我が儘さんだな。
君の我が儘なら、俺も聞き届けたいが。
何、気にすることはない…」
いくら羽織で上半身を隠した所で
腰から下が丸見えになっているから
その下で何をしてるか丸わかりだと
あげはが不満を述べると
そう杏寿郎が返して来て
今度はあげはの方が
ぱちぱちと目を瞬かせると
「気にすることはないと仰られますが、
私は、気になって…しまいます…よ?」
気になると言うあげはの言葉を
知らんぷりをして
徐に杏寿郎が顔を近付けて来る
「俺は、気にしない…が?あげは」
「ちょ、…杏寿郎、
…ここでは…止した方がッ」
杏寿郎にこれ以上顔を近付けないでと
言いたげにして自分の手を前に出して
あげはがそう訴えると
「確かに、外から見たら
俺と君が何をしてるのか
丸わかりかも知れんが、
だったら中からならどうだ?
こちら側からは、外は見えないだろう?」