第40章 気持ちの跡
「もう、
いい加減にして下さい、杏寿郎。
私は至って健康ですから。
私だって、その…杏寿郎を見習って
自分の気持ちを素直に
伝えて…みようかと…思ったまでで」
そう言ってあげはが
気恥ずかしそうにしながら
それ以上の言葉を濁していると
目の前の杏寿郎が目を見開いて
それからにっこりと
満面の笑みを浮かべて来て
「そうか、俺は勝手な事ばかりしてと
君に怒られるとばかり、
それを心配していたが。
それも要らぬ心配だったか?あげは」
その言葉にふふふと
あげはが笑みを漏らす
「杏寿郎が、その勝手な事をした
理由もちゃんと、教えて頂きましたから。
大丈夫にあります。
それを聞いて、怒る程。私だって
心の狭い人間ではありませんよ?杏寿郎」
「俺は嬉しいがな。あげは。
君がそう言ってくれて、
俺がせんとしてる事に
理解を示してくれて。その上、
俺がかなり急けている事にも
不満も漏らさずに
付いて来てくれるんだろう?」
「私がお伝えしたかったのは、
それだけにあります。
お時間を取らせてしまって
申し訳ありません」
急ぎましょうと
あげはが杏寿郎を抜かして
門をくぐると
玄関との間の石畳を数歩 歩いて行く
グイっと今度は杏寿郎が
あげはの羽織を引いて来て
「あげは。もう少し…話したい。
今、君と…いいだろうか?」
そう申し訳なさそうに
今度は杏寿郎が言って来て
「ええ、勿論、構いませんよ?杏寿郎」
「その、
もう一度、言って貰えるだろうか?
今日、君が具体的に、
俺にどうだったのかと…。
君の口から、今一度聞きたいのだが」
どこに惚れ直したのかと
言葉で聞かせて欲しいとそう
杏寿郎に強請られてしまって
えっと…とあげはが言葉を濁した
「その、今日は一日…杏寿郎には
惚れ直させられる事ばかりに…、
ありました…と。私の感じた事を、
お伝えしたまでにありますよ?」