第6章 無限列車にて 後編
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杏寿郎は眼前の鬼に向けて
ゆっくりと口を開いた
「老いることも、死ぬことも…
人間と言う儚い生き物の美しさだ。
老いるからこそ、死ぬからこそ、
堪らなく愛おしく尊いのだ。
強さとい言うものは、
肉体に対してのみ使う言葉ではない」
一旦 言葉を区切ると
強い口調で続けた
その双眸にはしっかりと
鬼の姿を捉えながら
「この少年は弱くない」
「!?」
杏寿郎の言葉に
うずくまっていた炭治郎が顔をあげた
「侮辱するな。それに…」
俺は知っている …心にも強さがある
そしてそれにも勝る
優しさを人を思いやる心を
この少年は持っている
そして その優しさを
他の誰かの為に 惜しむ事もなく
与えられる人が…いると言うことも
俺は知っている
杏寿郎の脳裏にあげはの顔が浮かぶ
この鬼に それを話して…何になる?
続けようとした言葉を杏寿郎が飲み込んだ
「いや、忘れてくれ…。
何度でも言おう。君と俺とでは、
価値基準が違う、俺はいかなる
理由があろうとも
鬼には…ならない!」
「そうか」
猗窩座は杏寿郎の言葉に
目を細めると短く答えた
猗窩座が右足を踏み込んで
腰を深く沈めると
その足元には 氷花のような
模様の陣が浮かび上がってくる
血気術…なのか…?
「術式展開!破壊殺・羅針!!」
にいっ
と不敵な笑みを猗窩座が浮かべる
鬼の闘気が今までの
物とは比べ物にならないほど
ふつふつと湧き上がっているのを
肌で感じる
ビリビリと空気までが震え出す
「鬼にならないなら殺すーー」
それが始まりの合図だった
一足飛びで猗窩座が
こちらへの間合いを詰めると
繰り出される拳を
杏寿郎が壱の型にて迎え撃つ
猗窩座はそれを
ギリギリに引きつけてかわすと
再び拳をこちらへ突き出して来る
繰り返される応酬の中で
猗窩座が漏らすように言った
「今まで殺して来た柱たちの中に、
炎はいなかったな!!」
猗窩座は心底戦いを楽しんでいる様で
一瞬過去の自分が殺した柱たちとの
戦いを思い出している様だった
止めどなく降り注ぐ雨の様に
次から次へと拳が伸びてくる
顔の前に刀を構えそれを受け止める
そのまま押し返し
鬼に斬りかかろうとするも
鬼の拳は更に強い力を乗せて
押し返して来る
くっ… なんて 力だ…