第39章 気持ちと想いと願い
店先に投げ売りの様な値段が付いて
置いてあった
巾着を作った時の端切れが入った
ビニール袋をあげはが指さした
そう真剣な表情をしながらそう言ったので
今度は店の主人の方が
あげはの言葉に目を見張って
「兄さんも豪快な買い物するお方だが、
その恋人だけあって、姉さんも
気前のいい買い物をするてぇもんだ。
ああ、こいつはタダでいいですぜ?
どうせ、切れっぱし集めただけだからねィ」
お金を支払いますとあげはは
主人に申し出たが
気にするなと逆に言われてしまって
そのちりめんの端切れの袋詰めを
結局タダで貰ってしまった
杏寿郎が小町紅を買った時に
巾着はサービスしてくれたと言っていたので
気前のいい主人なのかも知れない
小間物屋を後にして
2人で並んで大通りを歩く
こうしていると… 逢引きの様だな
隣を歩くあげはの方を一瞥すると
12個の巾着の入った袋を抱えて
あげはが満足そうな笑顔を浮かべていた
ついでではあったが
あげはをあの店に連れて行って良かったな
俺の視線に気が付いたのか
あげはと視線がぶつかって
「……あの、杏寿郎
…あ、いえ、何でもありません」
何かを言いたそうな顔をして
あげはがこちらを見ていて
何かを言いかけて止めてしまった
何だろうか?と
杏寿郎が考えていると
俺の隊服の袖の辺りを
ツンと隣からあげはの指先が
摘まんで引っ張って来るので
あげはのその仕草から
彼女がどうしたいと望んでいるのかが
杏寿郎には理解出来て
自然と顔が綻んでしまっていた
どうにも 俺の可愛い人は
こうも いじらしい事をして来るのか
”手を繋ぎたい”と
意思は表示しながらも
自分から繋いで来ない所も
それを口にしない所も
また更に いじらしく
可愛らしい限りにあるな
「手…を、繋ぐか?あげは」
そう杏寿郎が問いかけて
「…いいん、ですか?」
そうあげはが答えた