第39章 気持ちと想いと願い
杏寿郎の巾着袋と言う言葉に
あげはの顔がぱぁっと明るくなる
「それででしたのですね。
ありがとうございます、杏寿郎。
それに、私に先程、
小町紅を差しなおして欲しいと
杏寿郎が仰ったのは。こちらの
お店の方にお礼をとお考えで?」
あげはが昼食後に差し直した小町紅は
俺が差した色味よりも格段に淡く
深紅と言うよりは桜色に近い赤だった
「店の主人が
色々な色がひとつで出せるとは
言っていたが、本当だった様だな。
君は色が白いから朝の時の様な、
濃い深紅も冴えて似合うが、
君の雰囲気には、
今の様な淡い色も似合う…な」
そう言う彼の視線が
自分の唇に注がれているのが分かって
赤い色も淡い色も
似合うと言われてしまって
どうにも 恥ずかしくなって来てしまう
「え?あの…杏寿郎、
そんなに褒めても、何も出ませんよ?」
「褒める?俺は褒めてないが?
思った事を言ったまででしかないぞ」
「へい、いらっしゃい。
今日はウチに何をお探しでってぇ…おや」
店先のふたりの会話の声を聞いて
店奥から主人が出て来て
杏寿郎の姿を見ると
驚いた様子だった
「てぇ、お客さんっ。誰かと思いや、
アンタ、昨日の…小町紅の
お客さんじゃねぇですかい。
一体どうしたんでぇ?昨日の紅は
気に入りやせんでしたかィ?」
商品を返品しに来たのかと
そう思ったのか主人がそう返して来て
「いや、俺は買い物に来ただけだが?
あの紅は、いい買い物だったぞ?主人。
彼女に良く、似合っているからな!
良い買い物をさせて貰った。
そうだ、主人。
今日は女性物のハンカチを貰えるか?
彼女にハンカチを贈りたいと思うんだが、
是非とも、主人に見立てて貰いたくてな」
そう言って杏寿郎が
あげはの方をちらっと見ると
すいませんとあげはが店の主人に向けて
にこやかな笑みを浮かべながら会釈した
思わず 店の主人は あげはの
その顔よりも その唇を
先に見てしまっていて