第39章 気持ちと想いと願い
心地いいと感じていた
その彼の 穏やかな
視線に見つめられる事が
心地いいと
その数秒がまるで 永遠かの様な
そんな 錯覚にあげはが陥っていると
目の前にあった
彼の顔が笑顔に変わって行く
「幸せになろう、あげは。
この世界の誰よりも、俺と。
幸せになってはくれないだろうか?」
幸せになろう…と
それが何よりの恩返しだと
そう杏寿郎が言って来て
杏寿郎の胸に自分の顔を埋めて
何度も 頷いた
そう 何度も
「そう、望んでくれるだろうか?あげは」
その罪の意識のその先に
自分の幸せを願って欲しいと
そう彼が私に言って来て
「はい。杏寿郎…。
私…、幸せに…なりたいです。
今も、十分に幸せにありますのに…ッ。
でも、貴方がそう仰るのであれば…
そう願いたい。望みたい…のです。
貴方と…、幸せになりたいです。
杏寿郎。他の誰でもない、貴方と」
「うむ。良く言ってくれたな。
あげは。そうだ、それでいい。
それでこそ、俺が惚れたあげはだな」
そのまま 彼の腕に抱きしめられる
しばらくその抱擁に
自分の身体を預けていると
スルッと身体を開放されて
杏寿郎がこちらに手を差し出して来て
分からぬままに あげはがその手を取ると
「よし、この話はこれで終いだな!
あげは。少しばかり走るぞ!」
そう唐突に言い出して来て
え?え? ちょっとどういう事?
もうちょっと余韻とかに
浸らせてくれてもいいんじゃ…ないの?
とあげはが考えていると
「あのままが良かったのか?君は。
ここが往来の真ん中だと言う事を
君も忘れていた訳ではあるまい?」
しまった…そうだった
ここ 往来のど真ん中だった
あまりにも嬉しくて忘れてしまって居た
見る見るうちにあげはの顔が
真っ赤に染まって行って
思わず杏寿郎は吹き出しそうに
なってしまったが
「そうと決まれば、長居は無用!」