第38章 牛鍋とすき焼きと胸の外と内 後編
杏寿郎がそれに拘る理由を聞いて
彼のせっかち過ぎる様な
今までの行動が全て…
私と杏寿郎が その戦いにおいて
生きる為の 死ねない理由なのだと
そう杏寿郎が訴えかける様にして
こちらへ言って来て
正直な所 私は… 結婚式の
準備なんて 全てが終わってからで
そして ある程度落ち着いてからでいいって
そう思って居た
早すぎるとさえ そう思って居た
どうして彼は それに拘るのか
彼がそこまでに それを急ぐのかって
その理由を理解できずにいた…
彼のそんな想いも…知らずに…居て
「そこにある、人の想いも全て背負う。
重責に重責を重ねる。
確かに、荷が重すぎるかも知れん。
だが、
そうするぐらいで丁度いいとも思ってる。
思い出してくれるか?あげは。
あの時の、白無垢を依頼した
呉服屋での事と、仕立て屋のあの女性の事を」
杏寿郎のその言葉に
その時の事を思い出していると
あの時の呉服屋さんも
小さい頃から知っている
杏寿郎の結婚を
自分の子供の事の様に喜んでくれていた
だから…だ
杏寿郎の性急なお願いに
時間と手間を割いてくれて
その為に方々から 私達だけの為に
あの文字通りに最高級の
晴れの日に相応しい
白無垢の反物をあれだけの量
用意してくれたのだろう
あの仕立て屋の
デザイナーの女性だって……
あの時間でデザインをあれだけ
用意してくれて……
それに あの思い出のバラの
無理なお願いも叶えてくれると
そう言ってくれていた
確かに商売だから…と言う面は
ある程度はあるかも知れないでも
確かに 感じる
感じている
その人達が 私達に 幸せになって欲しいって
そう思ってそれを
用意してくれたんだって事
他の誰でもない 私達の為に…
そうしてくれたんだって事
でも 杏寿郎がそうしてくれた事で
見えて来た事があった
この戦いの
その先にある 未来が…
私の 頭の中で 彩を持って
想像できる形になる