第38章 牛鍋とすき焼きと胸の外と内 後編
「杏寿郎は、何でも、ひとりで。
先に先にし過ぎなんです。
2人の事に、ありますでしょう?
結納も、結婚もお一人では
お出来になりませんよ?杏寿郎」
そう言ってあげはが
むぅっと口の先を尖らせる
さっきの行動は意識的だったか
こっちの行動は無意識に時折
している拗ねたような仕草で
嫌味を言っては来てるが
その声を聞けば
嫌味ではないのは分かるから
そうして欲しいと
彼女が望んでくれている事実は
それだけ彼女が俺に気を許している
何よりもの証拠でもあるのだが
「それは、君が事を後回しにするからだ。
君の性格なら、結婚の準備その物を
全てが終わった上で、落ち着いてからと
そう思ってるのだろう?
だが…それでは遅い。
あげは、君は俺を既に
5年以上待たせている、自覚があるのか?」
「うっ、それを言われてしまうと…、
私としても、貴方に
返す言葉が無くなってしまいますが…」
杏寿郎に自分の考え方を
見透かされてしまっていて
その上にこれ以上は
待てないとも 同時に言われてしまって
あげはは返答を迷ってしまうが
「けど、だからと言って、
内緒で進められるのは嫌でありますよ。
それが事実であれども、それは…
勝手に事を進めていいと言う
理由にはなりませんよ?
杏寿郎…、理由位、聞いても…?
お教え頂く事も叶いませんか?私には」
そうあげはが杏寿郎に対して
そうしたいと思う理由を問うと
「理由だからだ」
こっちが理由を聞いているのに
彼は理由だと言って来て
「私は、理由を聞いてるんですよ?」
そう思わず答えてしまった
「だから。
それが、理由になるからだ!
只の約束よりも、強い、
理由になると俺は言っているんだ!
俺と君が死ねない理由でもあり、
俺と君が死なない、生きる理由になるからだ。
そうする為に生きたいと願える、
そんな理由になり得る…と
少なくとも、
あげは。俺はそう考えている。」