第38章 牛鍋とすき焼きと胸の外と内 後編
「…ズルいですよ、杏寿郎は」
そう ぼそっと
あげはが漏らす様に言うと
「ズルい?俺が…、全く持って
話が俺には見えないのだが?
何の事だ?俺がズルいと言うのは…」
杏寿郎が…ここまでにも
私の気持ちと
しのぶちゃんの気持ちを
重んじてくれていて
カナエちゃんの想いまで
汲んでくれていると言う真実が
とても 嬉しくて嬉しくて
どうにも 仕方がない位なのに…
こっちをそうさせて置いて
それを気に留めている
様子もないんだもの…ね
ズルい…ですね 杏寿郎は
「全く。格好良すぎに
ありますね、私の杏寿郎は…」
「ん?何か言ったか?あげは」
聞こえない位の小さな声だったので
そう杏寿郎があげはに問い返して来て
自分の胸の中にある想いを
どうにかして 彼に伝えたいと思って
そのまま 勢い任せに
杏寿郎にガバッと抱きついた
「あ。あげは?どうしたんだ?突然ッ…」
突然の行動に戸惑いながらも
ギュッと私の身体を受け止めて
包み込んでくれる行動に
また 余計に胸がギュッと
締め付けられてしまって
「杏寿郎…っ。嬉しいです、私。
嬉しいです…、凄く、どう言ったら
良いのか、分からないのですが…。
貴方に、この気持ちを伝えたくて…。
嬉しくて、
嬉しくて、…仕方ないです。私。
杏寿郎、ありがとう…、嬉しい」
「俺は、そうした方が、
胡蝶自身も胡蝶の姉も、
君の妹も喜ぶと思ったのだが?
そうか。嬉しい…か。
君が喜んでくれていると言う事が
俺は何より嬉しいがな!」
「杏寿郎ぉ、もう、喜んでますから!
嬉しすぎて…どうしたらいいのやら……。
わからないくらいに、喜んでますので。
杏寿郎、好きです。大好きです。
貴方のそんな所が、大好きにあります」
そう言って杏寿郎に
あげはが笑顔を向けて来る
その目に 光る物が見えて
それが 彼女が 心底…それを嬉しいと
思ってくれているのだと
杏寿郎に教えてくれていて
自分の胸の中に温かく穏やかな
感情が宿るのを感じていた