第38章 牛鍋とすき焼きと胸の外と内 後編
カナエちゃんの振袖を
引き振袖に…?
「あの…、杏寿郎…それは」
あげはは口をパクパクとさせて居て
なかなか言葉に
変えられないでいる様だった
「春日から聞いた話だがな、
自分の祖母から、母にと
代々受け継いでいた振袖を、
婚礼用に引き振袖に仕立て直して
貰ったと言う、友人が居たそうでな。
まぁ、君の事だ。その胡蝶の姉の振袖は、
あの…栗花落少女に
引き渡すつもりなのだろう?
何、心配には及ばんぞ。
その振袖に鋏(はさみ)が
入る事はないとの事だからな。
婚礼が済めば、元の振袖に戻せるが…、
どうだろうか?
あくまで、君がそのままである形に
君が拘りたいのであれば、
引き振袖にせずとも掛下にしてもいいがな」
どうだろうか?とそう杏寿郎が
私に提案をして来て
杏寿郎がそのカナエちゃんの振袖に対して
とても 心を
尽くしてくれているのが伺えるから
自分の胸がじんわりと温かくなって来る
「まぁ、掛下にしてしまったら
折角の振袖が隠れてしまうのは確かだが。
あげは、君としてはどうだ?
仕立て直しを依頼するにしても、
結納の後になるからな。今それを
決めてしまえ…とは俺も言わんが…」
確かに掛下にしても
振袖が見えるのは せいぜい胸元の辺り
だが 引き振袖にすれば
あの振袖が主役になるのは確かだった
そうするに しても…
ひとつ 気掛かりがある
「でも、杏寿郎…。
お言葉にありますが。
引き振袖は黒が主流にありますよ?
後は…そうですね、赤か白…か」
「色に拘る必要があるか?あげは。
俺が言っているのは、引き振袖を着るか
着ないかではなくて、その振袖を
君がその時に、着たいかどうかだ。
君は黒の引き振袖じゃないと、
恥ずかしくて着れないわ…なんて、
言う女だとは俺は思ってはいないが?
違うか?あげは」
私が その振袖が引き振袖に相応しい
色味ではないと言った事に対して
杏寿郎がそう返して来て
カナエちゃんの想いの込った
振袖を その時に着たいのかと
その気持ちが私にあるのかと
確認をして来る