第37章 牛鍋とすき焼きと胸の外と内 前編
彼女の目が真っすぐに俺を見つめていて
その瞳は これほどまでに
美しいのかと 感心すらしてしまう
強い 揺らぎのない
意思を 秘めた 瞳だ
彼女だけが持つ
その しなやかな強さに……
俺は幾度 惚れ直させられた事か
キョトンとした顔をしている
あげはと目が合って
不思議そうな顔をして俺を見ている
あげはに杏寿郎が
「やはり俺は、君を選んで
正解だったと、感じていた所だ」
「私も、同感です」
「あげは?」
「私も杏寿郎を選んで、
正解だったって話です。
あ、でも違いましたね。
……大正解でしたね」
そう言ってあげはがこちらを見ながら
にっこりと微笑んでいて
その笑顔を見ていると
こんな時に不謹慎なのかも知れないが
俺はやはり 彼女には
あげはには 笑っていて欲しいと
そう思ってしまって
願ってしまって 仕方がない
その後 牛鍋とすき焼きを綺麗に
杏寿郎が全て平らげてしまって
食事をしたので落ちてしまった紅を
直しに行くと杏寿郎に伝えると
杏寿郎からある事を提案されて
別にその提案が難しい事ではなかったので
あげははそれに頷いた
「え?ええ。それは…別に構いませんが」
「そうか、そうして貰えると助かる。
後…俺は少し、会計のついでに
三好さんに相談したい事があるから。
支度をゆっくりと整えるといい」
あげはがお手洗いと崩れた
口紅を直して 店の玄関の方へ向かうと
そこには何やら話し込んでいる
三好と杏寿郎の姿があって
こちらに2人とも
気がついて居ない様だったから
置いてあった屏風の陰で
その会話に聞き耳を立ててみると
その会話が途切れながらに耳に入って来る
「三好さん、先ほど…座敷があると
仰っておられたが。こちらの店では、
…ーーーを、するのは可能だろうか?」
杏寿郎が何を言ったのか
肝心の部分が聞き取れなかったけど
杏寿郎は…何をするつもりなの?