第37章 牛鍋とすき焼きと胸の外と内 前編
それを恐れる事なく
物怖じせずに 向き合えるのは
彼女の あげはが持っている
俺にはない… 強さ…だな
「あのー、杏寿郎。
箸が止まっている様にあるのですが。
お肉……、美味しいですよ?とても。
えっと…、お口に合いませんか?」
「ああ。いや、そんな事はない!
ここのすき焼きは、君が勧めるだけあって
実に美味いな。頂こう、うん、美味い!」
変な杏寿郎…
美味しい物を食べている最中なのに
明らかに考え事をしていた様だったし
彼の手が止まっていたから
杏寿郎は…… 何を考えてたんだろ?
今の 美味い だって
取ってつけたみたいな 美味いだったし
「で、それは…いつだ?
その時にまた、ここに来よう。
あげは。今度は竈門少年達も
連れて来てもいいんじゃないか?
だったら、君の家族も呼んで
食事会をしてもいいな。
食事は大勢の方が、美味いからな」
家族を呼んでと杏寿郎が言って来て
私には血縁関係のある家族は
いないのだから
蝶屋敷の皆の事…なのだろうけど
それにしても
2人で祝おうではなくて
皆で祝いたいと そう言って来た
真意が気になってしまった
「え?私の…誕生日祝いにありますか?
今からだったら、当分先にありますよ。
どうかなさいましたか?突然」
「あら。そうかい?次の時は
団体で、うちに来てくれるのかい?
嬉しい事言ってくれるじゃないのさ。
だったら、座敷、空けとくよ?」
そうしながらも
他の野菜を挟みつつも
ドンドンと給仕してくれる
牛肉もさることながらに
割り下の味の絡んだ
ネギも美味いな
米が…食べたい…なこれは
杏寿郎がすき焼きを食べながら
そんな事を考えていると
「これが済む頃には、
牛鍋も食べられるからね」
そう三好が杏寿郎に声を掛けて来る
「俺は、正直な所。
白ご飯が欲しいがな」
その杏寿郎の素直過ぎるまでに素直な
今の実直な気持ちが口を付いて出ていて
「そうだろうとも。白ご飯だね?
はいよ、兄さん。
ちょっと待ってやってくれるかい?
すぐ用意するからね」