第5章 無限列車にて 前編
「君は、ちょっと趣味が悪いんじゃないか?」
「そのまま、お返ししますよーだ」
「つまらない、意地を張るのはどうかと思うがな」
「仕事中ですよ?」
口説くのは後にしろと言う事か
「ふむ。食えない返事だな」
「悪かったですね。食べられなくって」
「俺としては、食える返事が欲しいがな。
それも美味しく」
胡蝶とのやり取りを俺は思い出していた
俺が食べたいと思っているのは
彼女の事かと尋ねられたが
俺が 食べたいと思っているのは
彼女の返事なのか
はたまた… 彼女自身なのか…?
ーギイィイイヤァアアアアアァーーーッー!!!ー
汽車と一体となっていた 鬼の叫びが周囲に
耳が張り裂けるような音で響き渡り
ビリビリと窓ガラスが震える
その絶叫に合わせて 車体が激しく
波を打つかのように揺れ動く
頭を失い 苦しみもがいて
のたうち回っているかのように
「まずいぞ!このままでは、
脱線する。乗客を守るぞ!」
窓の外は闇に包まれていてわからないが
体感でならかなりのスピードが出ている
このスピードのまま脱線すれば
車両は大破し大惨事だ
杏寿郎が型を次々に繰り出し
そのスピードを緩めようと奔走していた
フゥーーーーゥゥゥーー
今まで聞いた事のない呼吸の音
キィン 金属音にも似ているが何の音だ?
彼女を取り囲むように薄い鏡の壁が
幾重にも現れる
今まで
彼女が一度も使おうとしなかった 鏡の呼吸…
「鏡の呼吸 伍の型 鏡面迷宮 トリカゴ 逆反射!」
キィン キィン 何枚もの鏡が車両内に現れて
それが集まって大きなカゴのようになっていく
中にいた乗客達がそのカゴの中に閉じ込められて
カゴの鳥の様になっているのが外から見える
ガラスの様に透けて見えるのに
鏡面の様にこちらも映っているのか
「ここの人は、これで大丈夫!
いつもの逆にしてるから。中は安全だけど、
衝撃がみんな外に来るから煉獄君も
この車両から離れて!
私は奥にも同じことして来るから、君は前に!」
ドンッ 雷の呼吸で移動したのか
彼の返事を待つ事なくあげはの姿はなかった
ズドォオオオオオンッ!!
ギャギャ ギキィイイイイーーー
凄まじい 轟音と衝撃と共に
列車が横転ししばらくレールの上を滑りながら進み
そして… 止まった