第37章 牛鍋とすき焼きと胸の外と内 前編
そのまましばらく
待っていると
注文した量が多かったからか
別の仲居さんが2人 鍋と
すき焼きの具材の乗った
大皿を持って来て
すき焼き用の浅い鍋と
牛鍋用の予め具材の入った鍋を
それぞれの前に置くと
牛鍋の方の鍋を火に掛けた
「すき焼きは、仲居さんが
お世話して下さるんですよ?」
そうあげはがこちらに
囁き掛けて来る
ガラッと襖が開いて
すき焼き用の肉の乗った皿を持って
三好が遅れて入って来ると
「はい。今日は…いいもん
見せて貰っちゃったからねぇ、
これはお二人さんに、
私からのサービスね」
明らかに先ほどに運ばれて来ていた
すき焼き用の肉とは
三好の手にある皿の上の牛肉は
サシの入り方が違っていて
一目見ても
肉にあまり詳しくない者でも
特上のすき焼き肉だと
明らかにわかる肉だったので
あげはがその皿の上の牛肉を
目を輝かせながら見ていて
「わあぁっ。
いいんですか?三好さんっ
これ…、特上の……やつですよね?
三好小母さん好き……。
ありがとう。だって、これ、
美味しいって見ただけで
分かるやつだもの」
「勿論だよ。全く、現金と言うか
素直な子だねぇ。アンタは。
だって、アンタが折角、彼氏……
見せに来てくれたんだもんね。
これぐらいは。ああ。彼氏じゃないね。
結婚するんだから、婚約者か……。
羽振りも良さそうな、
いい所の息子さんじゃないかい。
品もあるし、快活明瞭そうじゃないの。
アンタには、……勿体なさ過ぎる
旦那さんじゃない。あげはちゃん」
「なっ、そんな
言い方を…しなくたって。
いいじゃないの。三好小母さんったら。
私を何だと思ってるのっ。
いや、まぁ…
確かに杏寿郎さんは。
その、私には
勿体ないって事は認めるけど」
「4年程前に、
婚約者のホラ…透真って子が
亡くなっちまってからさ。
ずっと、あげはちゃん、
気落ちしてたろ?
それからはさ、ぽろっと
そんな相手が出来ても
続かないみたいだったし?」