第36章 罪と罪 後編
「それは…、俺であったとしても
きっと同じ事をしていただろう…。
悲鳴嶼さんはあまりご自身を、
お責めになられるな」
不思議だった
こうして見ている
悲鳴嶼さんの背中は 大きいはずなのに
何故だか 酷く
酷く 小さく見えてしまうのは
何故なのだろうか……
「私があの時、
彼の望みを叶えてさえ居れば。
彼は……、透真は
あそこまで苦しまずに。そして、
今もなお……終わる事のない……
苦しみの中に、
その身を置く事もなく…っ……。」
そこまでの言葉を紡いで
そのまま悲鳴嶼は自分の目頭を
押さえたままで言葉をそれ以上に
紡ぐことも ままならなくなって
覆った手の下から
その言葉の代わりに
後悔と自責の念が 流れて来ていた
堤防が決壊したかの様に
次から 次へと
とめどなく 流れ落ちる
「すまない……、
謝れど許される物ではないのは
重々承知してる、
……が、すまない……ッ」
途切れ途切れになりながらも
悲鳴嶼が絞り出したのは
謝罪の言葉だった
「悲鳴嶼さん。
ありがとうございました」
「ーーーーッ、
あげは。私は……ッ…」
彼女の口から出たのは
悲鳴嶼を責める言葉でも
それでいて許す言葉でもなかった
「お話、を…お聞かせ頂いて。
今日、私はここに来て良かったです。
この事実を、知らぬままでその日を
迎えてしまう所でした……、
知れて良かった。だから、
ありがとうございます、お話して頂いて」
そう一旦言葉を区切ると
息を整えてあげはが続ける
「…ずっと……、
お辛い思いをされて来られて
いらしたのですね……。
私が未熟なばかりに。もっと……。
もっと早くに…私が、
前へ進めてさえ居れば…。
悲鳴嶼さんのお心に寄り添う事も
出来ておりましたのに……すいません」
こんな時に
こんな話を聞いて
そんな風に…言える物なのか
自分の中の葛藤もあろうに
私の事を 切に案じて
寄り添おうと そうしてくれるのか……