第36章 罪と罪 後編
「あれはそう、…彼が姿を消してから
ひと月ほど経った頃だった。その日
彼は私を訪ねてここにやって来た」
ぽつり ぽつりと悲鳴嶼の口からは
言葉が紡がれていく
その一言一言に重みがあるかの様に
静かに響いた
その話の内容を想像するだけで
自分の胸の辺りがざわざわと
騒がしくなって
落ち着かなくなって来る
透真さんが……あの後
ここに…来ていた?
悲鳴嶼さんに会いに来ていた?
それは 一体…どう言う事なの?
彼は ここに 何をしに…?
「透真さんが、こちらに……?」
「私に、ある事を…依頼する為に…。
彼は私の元に来た…のだが。
私はその彼からの申し出を、断ってしまった。
それは承諾できないと…、言ってしまった。
すまない…、あげは。私がそれを
断りさえしなければ…、こうは…
こうは、なりはしなかったのだから……」
悲鳴嶼の言葉は
深い 深い自責の念に満ちていて
後悔…しかないような
そんな言葉だった
「すまない。あの時の私が。柱として、
人として……私が、未熟だったばかりに…。
全てを……、君に。いや、君達に
背負わせる形になってしまった。すまない」
そう言いながら
深々と頭を悲鳴嶼が下げて来る
「悲鳴嶼さん。頭を上げられるといい。
それは不要だ。俺も彼女も謝罪を求めに
わざわざここへ出向いた訳ではない。」
「煉獄……そうか、そう……
言ってくれるのだな……、私に。
嗚呼…。
何と素晴らしい…、慈悲の精神…」
そう言うとジャラジャラと数珠を
その手ですり合わせ始めた
「今まで…貴方はそれを
ずっとひとりで
悔いて来られたのではないか?
話して、貰いたくあるのだが。
何も、その罪を背負うのは
ひとりでなくてもいいはずだ。
誰かひとりが背負えばいい物ではないと。
少なくとも俺は考えているのだが……」
「杏寿郎……。
彼の言う通りです。悲鳴嶼さん。
誰が悪い訳でもありませんから。
悪いのなら…皆悪いですし。
悪くないのなら
誰も、悪くはありませんから」