第36章 罪と罪 後編
玄弥の言葉にあげはと
杏寿郎がお互いの顔を見合わせた
どうやら気配がない通りに
当の悲鳴嶼はここにはおらず
ここから更に登った先の
山頂に居るとの事だった
「よし。あげは。
山頂まで一気に登るぞ!
不死川少年。世話になったな!
また近い内に、
不死川に会うつもりで居るから。
その時は、君の事は伝えておこう!
あげは、どっちが先に山頂まで
辿り着けるか競争しないか?」
「え?あのっ、競争って。
って、……もう行ってるし…はぁー」
先に駆け出して行った杏寿郎に
置いて行かれない様にあげはが
雷の呼吸をするとドンッと地面を
蹴って一気に駆け出した
しばらく 山道を駆け上がって
気が付いた事があった
先に駆け出しては来たが
後ろから気配が迫ってくる感じはない
あげはの速さならもう
俺に追いついて来ていても
良い頃なのに おかしいな…と
杏寿郎が思いながら
顔を大きく動かさずに後ろへ
視線を向けていると
声が 降って来た
上からだ
「杏寿郎、どこをご覧になってるんですか?
私は、そんな所にはおりませんよ?こっちです」
いや それも只の上からじゃないな
かなり上空から声が聞こえて来て
その声が
上空からしていたと思っていると
ふわっと 重さもない様な
そんなゆったりとした 動きで
杏寿郎の居た場所の
少し前に着地して来て
ストンと地面に降り立つ
その音すらも重さを感じない軽やかさで
あの高さから降りて来たのにも
関わらずに
着地の音もほとんどしなかった
「君のその動きは、
胡蝶の動きに似ているな」
「普通に地面を走るのは、どうしても
地形に左右されてしまいますから。
上なら、視界も開けていますし。
一気に距離を移動できますから。
この先が、山頂の様でしたよ。」
と言うあげはの言葉の通りに
生い茂っていた木々が途切れて
一気に視界が開けた
2人の前に
切り立った岩肌が広がっていた
その先にある崖に突き出た
大岩の上で独り瞑想をしている
悲鳴嶼の姿を見る事が出来た