第5章 無限列車にて 前編
風の呼吸を使ったかと思うと
次いで花の呼吸の技を繰り出していく
これは俺も負けてはおれんな
「炎の呼吸 弍の型 昇り炎天!」
杏寿郎のすぐ横をあげはが移動しながら
横に一閃 薙ぎ払った あの技は
「炎の呼吸 壱の型 不知火!」
「よもや!君は、炎の呼吸も使えたのか!!
俺の継子になるといい!」
今まで俺が継子にして 育てようとした
他の炎の呼吸の隊士よりも
数倍 彼女の方が適性があるのは確かだ
「なりませんから」
「不知火以外も使えるのか?」
興奮気味に矢継ぎ早に杏寿郎が話す
「全ての型は使えませんけど、
見せてもらえたら他の型も
使えると思いますよ?」
見るだけで型が使える様になるなら
誰も苦労はしないだろうに
あげはの言葉にそう思いながらも
「君が見たいと言うなら、見せよう!」
杏寿郎が炎の呼吸を
壱の型から順に伍の型まで
一通り繰り出して行くと
「これで良かったのか?…ん?」
あげはの方に向き直って確認する際に
ほんの一瞬だけ彼女の左目が
いつもと違う色に見えたような気がした
改めて顔をまじまじと見てもいつもの色だった
見間違え…か?
「はい。大丈夫です。あの、気がついたのですが…」
「どうした?」
こうして2人で普通に会話を交わしているが
この間も鬼は触手を絶え間なく生み出し
俺と彼女は5両の客車を行き来していた
俺と同じ いや俺より速さなら 彼女の方が速いか
彼女が雷の呼吸を使えば 甘露寺以上の速さだ
胡蝶ともいい勝負かも知れんな
「槇寿郎様は、あなたに型をお教えに、
なられなかったのですね」
彼女は柱をしていた 父上を知っている
彼女の目には俺の炎の型は 父上の炎の型と
異なって映っていると言うことか
「父上はある日突然、剣士を辞めてしまった…」
母上が亡くなったのが大きいのだろうが…
先程の鬼が見せた夢の中で
父上が言っていた言葉が気にかかっていた
ーどうせ…、大したものには なれないんだ
お前も…、俺も…ー
父上は立派な炎柱であった
それは“大したもの“ではなかったのか?
鬼殺隊の柱
その中でも代々煉獄家は炎柱を務めて来た
それは煉獄家の誇りであり 使命だったのだ
俺は そうなるべく生まれ そして育って来た
父上もそうであったはず…なのに
父上は炎柱の務めの先に
何を求めておいでだったのか?