第36章 罪と罪 後編
「本当は…、モルフォチョウに
ちなみたかったようですが…ね。
杏寿郎は、ご存じですか?
モルフォチョウ。世界で一番美しいと
言われている蝶なのですが…。
流石に人の名前に使える様な…
感じではなかったと言ってましたが」
モルフォチョウ
そう彼女の口から
別の蝶の名前が出て来て
その名前と姿には記憶があった
数年前に千寿郎と行った
博物館に展示してあった
標本でその姿を見た事があるが
その光沢を持った
青い輝きは さながらに宝石と呼ぶにも
相応しい様な 美しい蝶だったのを
記憶している
「森の宝石と呼ばれていて、
装飾品にも使われている種類の
青い羽が特徴的な蝶ですが…」
確かに アサギちゃんや
あげはちゃんなら まだしも
モルフォちゃんは嫌だな……と
杏寿郎は内心考えていた
「まぁ。結局、あれこれと悩んで
今の名前になったのだとは、
父からは聞かされましたけども…」
「そう言えば、君のお父上の
話をあまり聞いた事がなかったな」
「父は、蝶の標本もでしたが
コレクションが好きな様でしたよ?
切手やら、硬貨やらも集めておりましたし。
ああ。そうだ…モルフォチョウの羽は
青くないって言うのはご存じですか?」
そうあげはが尋ねて来て
俺のその当時の記憶には
モルフォチョウの羽は
光沢を帯びた青だった様にある
「青かったように記憶しているが?」
「構造色…の原理なのですが。
杏寿郎に貰ったあの小町紅が
玉虫色に見えるのと、同じ原理ですよ。
高濃度の赤の色素は、光を吸収して
緑に見えるんです。モルフォチョウの
羽も同じ原理でして、本来なら色のない
透明の羽をしているのですが。
表面の鱗粉が光を反射して青く
私達の目には映る…んです」
あげはの言葉に
杏寿郎が腕組みをしたままで
顔を顰めながら答えた
「ふむ。さっぱりわからんな。
あの蝶の羽は、俺の目には
青にしか見えんし。
あの紅も玉虫色にしか見えん」