第36章 罪と罪 後編
「アサギマダラ…」
「ん?今、…なんと言ったか?」
「アサギマダラですよ。
この蝶の名前…です、
この蝶は日本中で見る事ができますが。
アサギマダラは渡り鳥の様に…、
海を渡って行くんです」
にわかに 信じられない話だ
この小さな身体で海を渡ると言うのか
この小さな身体のどこに
そんな 能力を秘めているのだろうか…
指をこうしてと
あげはに促されて
杏寿郎が言われたままに
人差し指を立てると
あげはが杏寿郎のその指に
自分の手を添えて来て
ひらひらと 杏寿郎の指先に
アサギマダラが1匹
とまった
じっとその蝶を観察してみるも
変哲もない只の蝶だった
「1000キロ…飛ぶ個体も、
多く確認されている様ですよ?
中にはたった一日で
200キロ移動した例もあったとか…」
たった 1日で
200キロも飛ぶ?この蝶が?
にわかには 信じがたい話ではあるが…
「1日で200キロ……
この蝶が?信じられんな。
だが、飛ぶと言うのだから、飛ぶのだな!
にわかには信じがたくもあるが……」
ひらひらと杏寿郎の眼前を
ゆったりと優雅に
飛んでいるその姿からは
とてもたった一日で
そんな距離を飛ぶなどと言う事実は
信じられない と言う顔をしながら
杏寿郎が自分の指先にとまっている
1匹の蝶に目を凝らしていた
「たかだか、蝶々だと
完全に侮っていたな……、
彼等も呼吸を極めているのだろうか?」
そう杏寿郎が冗談を言って来て
くすくすとあげはが笑った
「どうでしょうね?彼等と
話ができたら、何かヒントがあるかも
知れませんけども。私にも流石に
表情の見えない蝶の言葉までは
分かりませんから」