第36章 罪と罪 後編
ひらり…
ひらり……
ひらひらと どこからか
蝶が一匹 飛んで来て
目の前をひらひらと飛んでいたと
そう思って居たら
ひらひら ひらひら…と
知らぬ内に
一匹 また 一匹と
彼女を取り囲むかの様に
蝶の群れが…出来て行く
風に舞う 桜吹雪と
ひらひらと舞う蝶が……
彼女を……より 際立させて
俺の目に見せる
まるで こうしていると
あの時の 様だな……
5年前のあの日
蝶屋敷で彼女の顔を
初めて見た時の事を
杏寿郎は思い返していた
「そう言えば……、君に初めて
求婚した時も。君の周囲には蝶が居たな」
「蝶寄せ……、杏寿郎は
蝶寄せをご存じですか?」
あげはが自分の顔の前に
手を出すと
ひらっと一匹の蝶が
その指先に止まった
まるで 魔法か何かで
彼女が蝶を操っているんじゃないかって
そんな 錯覚すら
憶えてしまっていると…
「いや、それは…初耳だが。
それは一体何なんだ?あげは」
「見たいですか?杏寿郎。蝶寄せ」
こちらを見ながらニコッと
あげはが笑みを浮かべて来て
杏寿郎にそれが見たいかと
そう尋ねて来た
蝶寄せ……と言う位なのだから
その言葉の通りに
蝶が集まるのだろうが
「ああ。見せてくれるのか?」
既に彼女の周囲には
水色と黒の羽をした蝶が
ひらひらと取り囲んで
飛び交っていて
「ええ。いいですよ…」
スッとあげはが
自分の右手を
その満開の桜の木の方へ向けて
人差し指を上げると
先程 彼女の指先に
とまっていた蝶が
ひらひらと天へと
空へと向かって飛んで行く……