第35章 罪と罪 前編
「え?ああ、そう言えば…
任務に同行した時に、丁度
近くを通りかかって、今みたいに
寄った事、ならありましたけど?
ここに来る時は、
大体いつも皆と一緒でしたから…って」
あげはにとってもあの場所は
家族同然の大切な人達との
思い出の場所である事も
秘密の場所である事も
間違いではなかったが……
「あの…、杏寿郎?杏寿郎は
あの場所の事をご存じなのですか?」
「ああ。宇髄から…聞いたからな。
三上透真の秘密の場所だとな」
あの場所と言った
秘密の場所に到着して
早駆けをしていた足を止める
宇髄とこの場所で
話をした時と同じように
まるでここだけ……季節が
春のままで 止まっているかのような
そんな錯覚を覚えてしまう
満開の桜の木が一本…そこにあった
だが あの時と違うのは
俺の隣に居るのは
宇髄ではなくて
あげはだと言う事
ここに来ると あの時
宇髄から聞いた話が蘇って来る
あの時の俺は彼について
三上透真について 驚く程
何も知らなかったが
だが…今の俺は違う……
「ここに来るのも、
随分と久しぶりです……」
そう言いながら
あげはが満開の桜の木を見上げた
「俺も、君と…ここに来るとは
思ってもいなかったからな……。
宇髄から話は聞いた…。あの宇髄の
性格の事だ。俺に話した話が
全てではないだろうが……」
「宇髄さんから、…話をですか?」
「あの時の俺は、彼の真実について
何も知らなかった…。
倒すべき相手そんな、
認識にしかなかったのかも知れん。
だが……、今はそうは思ってはいない。
俺は君に、彼を忘れなくていいと
そう言ったが…。俺も…
彼を忘れてはならないし。
彼に…、感謝せねばならないな」
そう言って笑みを浮かべる
杏寿郎の顔は
笑っているのに泣いている様に見えて
どうして 自分は
杏寿郎にこんな顔を
させてしまうのだろうかと
そんな風に…考えてしまう