第35章 罪と罪 前編
前に宇髄に…連れられて
あそこへ行った時に…
あげはと一緒にあの桜を見たいと
そう思って居たのは確かだ
きっと 数年前に
彼女は彼と あそこであの桜を
見たのかと思うと……
少々 心が落ち着かないでいるのは確かだ
恐らく この感情は
嫉妬……と
言う類のやつなのだろうが
過去に嫉妬した所で
その事実が無くなる訳でもないのに
俺自身が彼女にそうしろと
言っておきながら
何とも情けない話だが……
丁度いい 機会なのかも知れない
俺はこの現実を受け入れなくては
ならないのだから…な
あげははぼんやりと
杏寿郎の横顔を眺めていた
おかしいなって違和感を感じていた
杏寿郎はまるで… 私が
向かおうとしている場所を
知っているみたいだった
自分から誘ったのは良いけど
一瞬 杏寿郎が
とても険しい表情をしていたのに
気が付いたから
行こうと言ったのを
取り消そうとしたけど……
杏寿郎の方から行こうと言って来たので
そこに向かう事にした
隣を並走している彼の横顔を
あげはが見ていても
考え事をしているのか
視線もさっきから合わないし
その秘密の場所が近づくにつれて
あげはの胸の中に不安が広がって行く
「良かったのか……?あげは。
別に…、俺は過去の思い出まで
詮索するつもりはないが……?」
そういつもの彼からは
想像もできない様な
そんな力のない声でそう言って来て
彼は何を思ってそう言ってるのかと
思考を巡らせてみるが
わからなくて
過去の思い出……と言われて
「そうですね。良く……来ました。
カナエちゃんと、
しのぶちゃんと…、蝶屋敷の子達と。
みんなで一緒に、桜の季節じゃなくても
お花見が、ここなら出来るので」
そう言ってあげはが目を細めた
思って居た相手ではない
相手の名前があげはの口から出て来て
内心ホッとしてしまっている自分が居て
「あそこは、三上透真との
思い出の場所じゃないのか?」