第35章 罪と罪 前編
「……環…と言う漢字は、
音読みでは、カン。カンと言うのは、
輪と言う意味です…。全ての物が巡り
そしてその、巡り行く様が
大きな輪になる様に。
途切れる事のない輪には…、
終わりがありませんから」
終わりのない…物であるのなら
それがずっと 続いて行くのならば…
それは即ち…
「ならば、さながら
永遠とでも言えるのか?」
あげはが自分の腕に乗っている
絶佳の身体を
いつも環にしている様にして
よしよしと撫でる
「人もまた…、その巡り行く物の中の
ひとつでしかありませんから。
そして、途切れる事のない想いも……
過去から未来へと…続いて行きますので」
「だが、君はそうは言うが。
俺達は、終わらせに……行くのだろう?
その……終わりのない連鎖を、自らの
刃で断ち切る為に。違うか?」
「でも、杏寿郎。
終わりと言うのもまた、
ひとつの始まりにしか
過ぎない……のですよ?」
「ふむ。今日の君は
随分と、哲学的だな……」
杏寿郎が空を見上げると
青い空には太陽が輝いていた
見上げていた視線を降ろすと
真っすぐにあげはの顔を見据えた
「君は……その先に何を求める?
不変な平穏を求めてる訳でもあるまい?」
「杏寿郎は、私が環を選んだ理由…が
お知りになりたいのでは無かったのですか?」
俺の質問には
今は答えるべきでないと
そう言うかの様にして
話を元に戻されてしまった
確かに…色々な
不条理…を持ったような鴉だ
自分の相棒にその鴉を選ぶ事を
何故彼女が選んだのか
それを聞きたいとそう思って居た
「確かに、丁度時間も出来たからな。
君の鴉について話でもするか」
走るのを止めると
そのまま誰も居ない道を
肩を並べて歩き始めた