第35章 罪と罪 前編
「にちか、ひなき…、
優しい、いい子に育っているね。
君達の成長を、
私は喜ばしいとそう思ってるよ」
産屋敷が両手を
それぞれの頭に置いて
よしよしと頭を撫でてやると
普段はあまり表情を変えない
2人の娘が嬉しそうに目を細めて
顔を緩ませるのが
感じ取れて それにつられる様に
産屋敷も笑顔を浮かべた
「私も…、覚悟を…決めようとそう
思って居るんだ。
私も皆に守られるばかりでは……、
何も…変えられないからね。
まだ、幾ばくかの時間がある……。
その内に行冥に、それについて
話そうと……そう思って居るよ」
にちかとひなきはその言葉に
ただ深く 耀哉に頭を下げた
ただ ただ 深く
その言葉に敬意を称するかの様にして
己の頭を下げた
でも…… どうして
どうして そんな事を言いながらに
その顔は 優しい
穏やかな笑みに満ちているのかと
目の前に居るのに
遠く 遥かに遠くにすら感じる
耀哉に 自分達の父に対して
それを 問う事すらも
ふたりには出来ずに
まだ幼いふたりの娘は
父のその笑顔を
自分の目に焼き付ける事しか
叶わないでいた
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ふたりで悲鳴嶼さんの住まう
小さな庵のある山を目指していた
前に柱をしていた時に
お館様が彼に屋敷を贈ろうとしていたのを
仏門に帰依しているので贅沢は不要
質素な小屋で十分だと そう言っていたのを
不意に思い出していた
「そう言えば…、あの夜も
悲鳴嶼さんと一緒だったな、君は」
「ええ。そうですね。
悲鳴嶼さんよりも私の方が、
先に柱になっておりましたので」
「そうか。悲鳴嶼さんは柱を
8年務めているが。君の方が先に
選別を受けていたのだったな」
早駆けをしながらも
杏寿郎が悲鳴嶼について
あげはに尋ねて来て
「ええ。そうですね。悲鳴嶼さんは、
私の次の年の選別だったと。
前に話した事があったかと…」
「だったら、
彼は…?彼はいつ鬼殺隊に?」